2006年5月11日木曜日

アガサ・クリスティ 「動く指」(ハヤカワ文庫)

ミス・マープルもののミステリーなのだが、いつまでたっても、マープルは登場してこない。

殺人事件もふたつ起きるのに、素人みたいな青年が、村の中をうろうろして、殺人事件が起きた家の娘にちょっかいだしたり、美人の家庭教師にぽーっとしたり、生意気そうな妹とおしゃべりしたり、なんか犯人捜しとは、あんまり関係なさそうな話が結構続く。


ま、それはさておき、舞台は、「リムストック」という田舎町。主人公というか、この話の語り手のジェリーは飛行機事故で足を怪我していて、静養も兼ねて、この町に妹とともにやってきた。という設定。

なーんにも事件の起きそうにない田舎町の風情なのだが、どうしてどうして、なんか陰湿な「匿名の手紙」が横行している。それも、秘密を暴き立てるというより、根も葉もない中傷の手紙のようなもの。ジェリー青年も、リムストックで一緒に暮らしているのは、妻でも妹でもない、といった手紙を受け取ることになるが、この内容が、ふーんといって受け流せないほど「嫌らしい手紙」という扱いをされるのは時代のゆえか。

しかし、この「匿名の手紙」が事件の引き金というか、原因になってしまうのだから、たかが手紙といってもあなどれない。


弁護士のシミントン氏の夫人が、この手紙を受け取って内容を見たが、それを苦にして、青酸カリで自殺してしまうのだ。
このシミントンの家っていうのが、夫人の連れ子で美人そうなのだが、蓮っ葉そうな娘(ミーガン、という名前だ)がいたり、自殺した夫人も結構キツそうな女性だ。

そして、この家で第二の殺人がおきる。今度はお手伝いが殺されてしまう。

それも後ろから殴られて、金串で頭を刺されるという殺され方。その上階段下の戸棚の中におしこまられていた、というから、なんとも荷物扱いっぽい。


このお手伝いさん殺しの犯人は誰だ、ということでお話は展開していくのだが、中心は、あの「匿名の手紙」を誰が出したのか、ということ。
どうも、このお手伝いさん殺しは、いきずりの犯行みたいな扱いで、真面目な犯人捜しになかなかならない。


そのうち、ジェリー青年がミーガンに結婚を申し込んだり、ジェリーの妹は、村の医者に惚れてしまったり、お前等真面目に犯人捜せよなー、と言いたくなるぐらい。
おまけに、村人ときたら、その一族の悪口をいうと不幸がおきると評判の婆さん(こうした一族を「賢者の一族」っていうらしい。)がいたり、批評家っぽいような牧師の奥さんがいたり、まあ、イギリスの田舎ってのは人が少ない割りに個性的な人が多いのねー、と妙な感心をしてしまう。


で、最後の方で、この牧師の奥さんに招かれたミス・マープルが、かなりあっさりと事件の謎を解明してしまう。ちょっと、がっくりくるところもあるのだが、犯人は、囮捜査で捕まえるから、推理と証拠固めに万全の自信があったわけではないのね、と個人的に納得したりする。



ネタバレは、美人には、何歳になっても男は弱い、ということと年取ると女に惚れるのも命懸け、というか、思い込んだら、こんなに恐いものはない、といったあたりかな。


最後は、みんなが幸せそうに結婚しました、っていうところで終わるから、ハッピーエンドなんだろうが、この中に将来の殺人の種が隠れてるのかもしれないよねー、と思うのでした。

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