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2013年3月20日水曜日

宮部みゆき「蒲生邸事件」(文春文庫)

サンデー毎日に連載されていた当時、大学入試に失敗した受験生が予備校受験で宿泊したホテルで火災に巻き込まれるが、そこでタイムトラベラーに出会い、戦前の2・26事件当時の東京へ・・・、といったところまで読んだあたり、よくあるタイムトラベラーものか、と思い、そこでスルーしていたのだが、今までそんな扱いをしていたのを改めて後悔した。

筋立ては、ホテル火災の中で、予備校受験のためそこに宿泊していた受験生 尾崎孝史が
タイムトラベラーの血筋を引く男 平田に救われるが、彼に連れて行かれたのは、2・26事件が起きた昭和の初期。しかも、着いたところは、ホテルがあった所で、そこは元陸軍大将の蒲生憲之の私邸で、2.26事件が起きた場所に程近いところ。そして、そこで起こる蒲生元大将の死亡事件・・、といった感じで展開する、2・26事件の勃発から鎮圧までの数日間の物語である。

主な登場人物は、主人公とタイムトラベラーの平田以外は、蒲生大将の弟、後妻、息子と娘、そして使用人の女性2人で、はじめの展開は蒲生大将の死亡は果たして自死なのか、といった風で展開するのと、本書の紹介文もSFミステリーといったことになっているので、思わず犯人探しを始めてしまうのだが、ここでうかうかと乗ってはいけない。
個人的に思うのは、この物語は、ミステリーとして読むのではなく、戦前の、しかも2・26事件あたりの戦禍への危惧が濃厚になるなかで生きている人々を描いた「歴史もの」としてとらえるべきであろう。
それは、孝史が女中のふきに戦争が始まり、負けると告げる場面で、彼は冷静な対比でもは未知のこれから選択する出来事として考えている当時者性の違いであろう。
で、まあ、これは作中の蒲生大将と東条英機首相との対比でもあるのだが、まあこれは本書で。

相対に言えば、ハインラインの「夏への扉」がSFものでありながらリリカルなラブストーリーであると同じに、この物語をSFでありながら、戦争へと進んでいく時代の人々を描いた「歴史もの」であるといっていい。
どっしりとした読後感の残る中篇小説である。

2011年7月31日日曜日

宮部みゆき 「孤宿の人」(新潮文庫)

江戸の萬屋という建具商の若旦那が女中に手をつけた娘として生まれた「ほう」は、四国の金比羅さんに萬屋の災厄を払うために代参にやられる。ところが、おつきの女中に金を持ち逃げされ、捨てられるように、四国の丸海藩の城下に放り出されるあたりから、この物語は始まる。

この「ほう」が、井上家という、丸海藩の藩医の家に拾われるが、その家の娘 琴江が、どういう理由か、物頭の娘、美祢に毒殺される。ところが、藩は、琴江の死を病として処理する。
そのうち、この丸海藩に、江戸で幕臣で、妻子を手にかけ、同僚を殺した悪鬼のような「加賀殿」がお預けになることがわかる。琴江の死は、彼が丸海に災厄をもたらす前兆なのか、といった感じで、展開していく。

構成は

文庫の上巻が

海うさぎ/波の下/鬼来る/闇は流れる/孤独の死/涸滝の影/遠い声/死の影

下巻が

闇に棲む者/黒い風/山鳴り/深流/騒乱/丸海の海

となっているのだが、こうした表題をみただけでは何のことやらわからないので、
その後を、粗く流すと、井上の家から、町の御用聞きの親分の厄介になった「ほう」は、井上家と藩の計らいで、流人の加賀殿の女中として仕えることになる。そして、彼女が、加賀殿に仕えると同時に、世話になっていた御用聞きの親分が子供の不始末で一家全員が処刑され、「ほう」が馴染んでいた、加賀殿の世話をしていた若い武士も詰め腹を切らされ、そして、城下全体に落雷や流行り病やらの災厄が降りかかる。
そして、その終結として・・・
ってな感じで進むのだが、詳細は本書でご堪能いただきたい。


かなり、というか筋立て自体は、暗い出来事というか、人が死んだり裏切りがあったりという話なのだが、なんとなく、陽の差すような感じがするのは、「ほう」の人を信じる「明るさ」ゆえなのだろうか。御用聞きの手下の「おあんさん」についていく姿、加賀殿に手習いや字を教わるひたむきな姿に、彼女が時流を素直に受け止めながら、流されるようで流されない、彼女の巣阿多が、この話を支えている。この丸海藩が、加賀殿という媒体を使いながら、自らを浄化していくために、彼女の「素直な目」が重要な要素となっているようにさえ思う。

では、この話の最後を臆面もなく引用して、このレビューを終わりにしよう。スコンとした明るさが感じられたなんとなくいいところだ。

では

 ほうは駆けていく。息をはずませ、白い菊を三本手にして、坂道を登っていくほどに、青空が近くなり、足元に町の眺めが開けていく。風がほうのほっぺたを撫でる。
 登りきると、空を押し上げ、いきなり海がいっぱいに開ける。
 おあんさんの海だ。
 ほうは足を止め、丸海の潮風を吸い込む。そしてくるりと踵を返し、背中を伸ばして、涸滝のお屋敷があったあの森の眺めへと顔を向ける。
「加賀様、おはようございます」
 ぺこりと頭を下げて、ご挨拶する。そしてまた走り出す。おあんさんのお墓は、いちばん海に近いところにあるのだ。うん、ほうもそう思う。おあんさんはきっと、この場所が気に入っているよ。
「おあんさん、おはようございます」
 走りながら呼びかける。ほうは元気で、今日も一日しっかり働きます。

2011年2月28日月曜日

宮部みゆき 「日暮らし」(講談社文庫)

「ぼんくら」で鉄瓶長屋がつぶされて湊屋の別宅が建てられ、煮売屋のお道は、近くの幸兵衛長屋に移り、それぞれの新しい話が始まって・・・といったところから始まる「ぼんくら」の後日談。

後日談といっても、話自体は全く別物で、登場人物や、舞台設定が同じ、シリーズ第2作と考えたほうがいい。
 構成は
 「おまんま」
 「嫌いの虫」
 「子盗り鬼」
 「なけなし三昧」
 「日暮らし」
 「鬼は外、福は内」
 で、「ぼんくら」の場合と同様に、「おまんま」から「なけなし三昧」で本編の「日暮らし」に至るエピソードや伏線や目くらましをぽんぽんぽんと振っておいて、
あれよあれよ、といっているうちに、物語世界に引き込んでしまうのは、手練れの技としかいいようがない。

簡単に、前振りの話を紹介すると

 「おまんま」は、政五郎親分のところにやっかいなっている"おでこ"が自分の落ち着きどころというか存在する価値を再発見する話であり、

 「嫌いの虫」は「ぼんくら」で鉄瓶長屋の差配を勤めていた佐吉が幼なじみのお恵と所帯をもってからの夫婦のすきま風とその修復の話であり、

 「子取り鬼」は、佐吉の実母である葵の身の回りをすることになるお六が、葵の助けでストーカーから逃れる話。

そして、

 「なけなし三昧」は、煮売屋のお道の長屋に、上品で値の安いお菜を売るライバルの出現の、そのライバルが安値でお菜を商う本当の訳、

といったもので、こうした短編の積み重ねの後に、本編である「日暮らし」がどんと持ってこられる。

 で、「日暮らし」では、なんと佐吉の実の母である葵が殺される。そして、現場には佐吉が腰を抜かしていた。葵は佐吉に殺されたのか・・・。佐吉の疑いを晴らすため、同心の井筒平四郎と弓之助が大働きし、お道は、煮売屋のライバルで、行方をくらましたおえんの奉公人を助けているうちに、煮売屋の商いを大きくすることになり、といった感じで進んでいく。

 犯人というか、謎解きは、ありゃ、こっちの方へ言ったか、といった感じで拍子抜けする感はあるのだが、うまい伏線のせいか、最後まで、うかうかと読まされてしまうあたり、筆者の腕の冴えは衰えてはいない。

 と、まあ、推理ものとして読むのもいいが、この筆者の物語を読む楽しさには、その語り口を楽しむといったもう一つの楽しみがある。

 例えば「なけなし三昧」でだしのほう

 だから平四郎は、お徳が気負い込んだ様子で彼を呼び、おいおい何だよと店をのぞいてみて、小あがりの座敷にずらりと並べられたお菜を見たときには、すわこそと喜んだのだ。ようようお徳もやる気を出したかと、箸を持つ手も浮き浮きと、皿から小鉢へと飛び移り、あれも旨いこれも旨いと大声で誉めた

といったあたりを読むと、これから、どんな展開があるのかわくわくするし、

 「おまんま」の最後のほう、ふっきれたおでこが、ふさぎこんだ訳を平四郎にうちあける場面の

 あい ー と、おでこは声を出さずに口の動きだけで返事をした。
おっかさんが恋しいわけでも、片恋でもなかった。もっともっと ー むしろ「大人らしい」ことで悩んでいたわけだ。
  おまんまのいただき方は、人それぞれに違う。違うやり方しかできない。自分にできるやり方をするしかないし、それしかやりたくないのが人のわがままだ。それでも平四郎はふと考えた。白秀も、似顔絵扇子を書きながら、自分はここでこんなことをしていて良いのかと、自問したことはなかったのかなと。

といったくだりを読むと、おでこ頑張れと言いながら、ふと我が身を振り返って、うむ、と言わされたりするのである。
なにはともあれ、作者の腕が冴えわたる上出来の物語であります。読んでおいて損はありません。

宮部みゆき「ぼんくら」(講談社文庫)

宮部みゆきさんの得意技である、江戸の長屋ものである。
舞台は、深川北町にある鉄瓶長屋。鉄瓶長屋ってのは、長屋の初めての井戸さらいで赤く錆びた鉄瓶がふたつもでてきたことによるとなっているが、ここで、太助という長屋の住民が殺されるところから、物語は始まる。

構成は

殺し屋
博打うち
通い番頭
ひさぐ女
拝む男
長い影
幽霊

となっていて、「殺し屋」から「拝む男」は、本編である「長い影」に至るための、重要なエピソード集であり、「幽霊」は「長い影」の後日談となっている。

筋立ては、最初の太助殺しから始まって、「博打うち」の博打狂いの父親の借金の方に岡場所に売られそうになある娘が、父親の一言でどうしたか、といった、それぞれに、ほぅっと唸らされながら、途中、鉄瓶長屋の差配を務めていた九兵衛が失踪し、その跡に長屋の所有者である湊屋の姪の息子の佐吉が新しい差配となるが、店子は、櫛の歯を欠くように減っていくのだが、どういうわけか湊屋は、それを望んでいる気配もあり、、そこに、湊屋と若い頃、同じお店で働いていて、そこでの諍いで湊屋を深く恨んでいる岡っ引の仁助が絡んできて・・・てな調子で、いつのまにか、宮部ワールドにどっぷりとに浸ってしまっている自分を発見するという、いつものパターンだ。

で、また、狂言回しを務める主要な配役がまた良い。なによりも暇をうっちゃることに長けている同心の井筒平四郎や、煮売屋のお道、そしてなんといっても、平四郎の甥の弓之助だ。この何でも測量したがる、頭の回転のいい、人形のような美少年が、こまっしゃくれた調子で推理を巡らすのが、これまた良いんだよねー。


で、まあ、少しばかりネタばれすると、大店の妙な痴情沙汰の果ての後始末ってなところなのだが、はじめにふってあるネタが、最後の方になると、バタンバタンとどんでん返しが連続しておきてくる。、嗚呼、やっぱり宮部の姉(あね)さんに、うまうまと騙されちまったよ、と唸ってしまうこと請け合いの話である。

ところで、読むほどに、この煮売屋のお道の店で売っている、蒟蒻か里芋、ちょっと頬張ってみたくなるのは私だけだろうか?

2005年11月27日日曜日

宮部みゆき「心とろかすような マサの事件簿」(創元推理文庫)

「パーフェクトブルー」で大活躍した、元警察犬マサの短編集。

収録は「心とろかすような」「てのひらの森の下で」「白い騎士は歌う」「マサ、留守番する」「マサの弁明」

蓮見探偵事務所の調査員で所長の娘のボディガード、元警察犬のマサの視点から書かれたミステリーの掌編。マサの語り口が、また良いのですねー。そして、マサの目にうつる、所長の娘、加代ちゃんが、また一本気でかわいらしい。「パーフェクトブルー」を読んでなくて、こっちから読み始めても「好」な短編集である。

ネタを全部書いてしまうといけないので、それぞれの短編のさわりだけ、

「心とろかすような」では、諸岡進也と所長の次女、糸ちゃんが二人で朝帰り・・・?という疑いをもたれるところから始まる。なんと二人は、朝早く、ラブホテルから二人ででてくるのを発見されたのだ。なんとかその疑惑を晴らそうとする加代ちゃんは、奇妙な行動をとる金持ちをみつける。その陰に子供をネタにした詐欺事件が潜んでいた・・・

「てのひらの森の下で」は、早朝のマサの散歩中に死体をみつけた加代ちゃんは、同行のジョギングをしている女性と警察に知らせに走るが、その死体は、実は偽装。逃走しようとする死体を追いかけようとするマサは、何者かに殴られ、昏倒。なぜ、死体を偽装するといったこみいったことをする必要があったのか・・・

「白い騎士は歌う」は強盗殺人事件の犯人として指名手配されている男の姉が、その男の捜索を頼むところからスタート。その男は、非常に姉思いで殺人を起こすようなことはないと姉はいう。おまけに金にこまっていたが、何故かうれしそうに金にこまっていたらしい。彼はなぜうれしそうに借金をしていたのか・・・

「マサ、留守番する」は、台湾旅行に家族で出かけた留守を、近所の動物好きの女性と留守番することになったマサ。留守の探偵事務所に5羽のウサギが届けられる。届けてきた小学生は、学校の飼育小屋から盗んできたらしい。彼女は、飼育小屋にいれておくと数年前のように、またウサギが殺されてしまう。家で経営しているゲームセンターで、ウサギを殺す相談をしていた高校生と中学生の二人組みの話を聞いたというのだが・・・

「マサの弁明」は推理作家の宮部みゆきから、夜中に家の外を歩く足音の捜査を頼まれる。足音はするが、姿は見えないのだという。蓮見探偵事務所の加代ちゃんは、その捜査に乗り出し、謎は比較的簡単に解けるが、その陰で、推理作家の子供の頃の事件の記憶がよみがえる。

といったような話。答えを知りたい人は、どうぞご一読を。宮部ワールドが堪能できます。

宮部みゆき 「パーフェクトブルー」(創元推理文庫)

筆者の長編デビュー作にして、蓮見探偵事務所の元警察犬マサのデビュー作でもある。

しかし、長編デビュー作しては、うまいですね~。さすが、今は、日本推理小説界どころか小説界を代表する作家にまでなってしまった筆者のデビュー作なだけはある。

ことわざ的にいうと「栴檀は双葉よりかんばし」といったところか

話は、東京湾を臨む工業団地で、火の手があがる。その火の中では、人間が燃えていた、
という場面から始まる。

この燃えていた人間は、高校野球のエースで諸岡克彦。このエースの弟で不良っぽい諸岡進也と、彼が結果的に転がり込むことになる蓮見探偵事務所の面々(所長、調査員でもある長女の加代子、次女の糸子、そして、元警察犬のマサ)が、この陰惨な殺人事件の犯人を捜していく物語である。

最初は、克彦の幼馴染で、交通事故から今は野球を断念してドロップアウトしている山瀬という少年が犯人ということで一件落着ということになりかけるのだが、そうは問屋がおろさない。

克彦の所属する高校のライバル高校の策略やらが絡んできたかと思うと、製薬会社のなにやら昔の新薬実験の旧悪とそれの脅迫事件までも、絡みついてくる。

目の覚めるような青色から、「パーフェクトブルー」と呼ばれていたドーピング検査薬の新薬開発を人間をモルモットがわりにした製薬会社の当時の開発責任者がなりふりかまわずもみ消しにかかてくるのに、進也や加代ちゃん、マサといった蓮見探偵事務所の面々も巻き込まれ、終には、誘拐され、殺されかかかる。

あやうく逃れた彼等の前に、克彦殺しの真犯人が明らかになるが、それは、意外にも・・・(といったところで犯人は明かしません)

話自体は、甲子園を目指す高校野球の歪んだ姿や、臭い物に蓋どころか燃やして、ないものにしてしまおうとする大企業に代表される組織など、かなり盛りだくさんで、濃いいのだが、語り口が、サクサクしているので、どんどん読めるミステリーである。

結末を知って、ちょっとブルーになったところで、加代ちゃんが進也に、兄のことを尊敬していた聞く場面の進也のこんな言葉で救われる。

「尊敬しても、憧れてもいなかった。ただ、兄貴が好きだった。大好きだった。それだけだよ。」

ここには、高校野球のエースと弟の姿や、兄を殺した犯人をつきとめた弟の姿ではなく、仲の良い、ただの兄弟の姿がある。

宮部ワールド特有の、じんとくる最後の場面にちょっと、涙ぐみそう。

宮部みゆき 「夢にも思わない」(角川文庫)

東京の下町に住む中学生、緒方雅男くんの「今夜は眠れない」の続編。

今度は殺人事件がおきます。しかも、雅男くんがあこがれる同級生クドウさんの従姉。場所は、毎年9月末に虫聞きの会が開かれる、近所の「白川庭園」。おまけに、クドウさんが、その虫聞きの会に家族連れでいくということを聞いて、なんとか偶然の出会いをしようと企んでいたら、雅男くんが発見者になってしまうというおまけつきである。

その従姉(森田亜紀子さん)が売春をやっていたことがわかってきて、学校の皆のクドウさんを見る目が変わってくる。雅男は、大好きなクドウさんを守るために(うまくいけば仲良くなるために)、親友の島崎と犯人探しに立ち上がった・・・という前回と同じノリの立ち上がり。

ところが、前回より仕掛けがだんだん大きくなる。複雑な家庭の犠牲者と思われた従姉が実は、売春組織の結構な顔役だったことがはっきりしてきたり、クドウさんが、その従姉に組織に引き込まれようと再三誘われていたり(組織のチラシにクドウさんの写真がつかわれていて憤慨する場面もある)。

また、僕や島崎の恋愛の方も、いろんな展開を始める。事件がきっかけでクドウさんと仲良くなり、デートまでこぎつけるのだが、なんと親友の島崎と一時期つきあっていたことがわかって動揺したり、島崎は島崎で、事件や組織に何か関わっているような片耳ピアスの女の子と夜に会っていたり。

話は、売春組織の捜査や摘発と雅男とクドウさんの恋物語の進展といった二つの筋を軸に進んでいく。クドウさんにベタぼれ(この女の子も、ちょっと大人しくてはかなげで可愛らしそうなのだ)の雅男の姿に、きっと皆さんも自分の過去を思い出して恥かしくなりますよ。

そして大団円。

亜紀子殺しの真犯人も捕まって、さあ終わり、と思ったら、また、この作者、最後に残してましたよ、地雷を・・・。

「あたし、怖かったの・・・」という女の子らしい言葉が、やりきれない感情を呼び起こすということを、最後の場面で教えてくれる。

(そういえば、最初から別扱いだよな、名前もフルネームででないのがなんか符号っぽいなーと思ってたのだが・・・。でも、筆者の目線は、この人に、ちょっと厳しすぎるんじゃないだろうか。)

宮部みゆき 「今夜は眠れない」(中公文庫)

東京の下町に住む僕(緒方雅男)のところに突然、弁護士がやってきて、伝説の相場師が僕のかあさんに5億円の遺産を残して死んだことを告げることから始まる、ちょっとコミカルなストーリー。

どうも母親は若い頃に、その相場師の命を救ったことがあり、そのお礼らしいのだが、相続が表にでると、近所や同級生の態度がかわり、見ず知らずの人からの嫌がらせの嵐。おまけに、その相場師とかあさんができていたんじゃやないかと邪推して、とうさんは家を出てしまう始末(父親は結構浮気っぽくて、そのときに女がいるのだから、仮に邪推が本当でもどっちもどっちなのだが)

壊れてしまいそうな家族を守るため、僕は、親友の島崎(とんでもなく将棋が強いらしい。これは、今回の話では何の伏線でもありません)と、相場師が母親に遺産を残した真相をさぐるため、調査にのりだす。

二人は、両親の若い頃からの足取りをたどり、関東地方のあちこちを調べるが、有力なてがかりはでてこない。そのうち、嫌がらせの電話に閉口して一旦転居することにするが、偽装誘拐時間に巻き込まれ・・・、といった話。

殺人事件はおきるわけではないので、そうした謎解きを期待して読むとあてがはずれる。

途中ででてくる、タレントと大金持ちの娘の宝石(ポセイドンの恩寵)の争奪戦が意外な伏線。

僕と島崎のやりとりや、父親の浮気相手が実は金目当てだったり、別荘では、ちょっとしたカワイイ子を見つけてときめいてしまったり、筋とは関係ないところでも小味がきいていいて楽しめる。

結局は、死んだ相場師が、企んでいた死後の謀略の一つの駒に、この家族がつかわれていたってことだけ(筆者は、ビリヤードのクッションという絶妙な表現をしてますな)か?

と思ってると、最後に、もう一ひねり。あっと巴投げをくらう。

年を経ると猫も化けるが、女も化ける、ということか。旦那さんの浮気に悩む奥さん、必読の書。もっとも、このトリック、誰でも使えるっていうほど簡単ではないが・・・

2005年11月8日火曜日

宮部みゆき 「ステップ・ファザー・ステップ」(講談社文庫)

遺産相続で大金を得た独身女性の家に忍び込み盗みを働こうとした泥棒が、忍び込むときに使った鉤フックに落雷。泥棒は隣家の家に落ちるが、そこで、双子の兄弟(宗野直と哲)に出会う。両親は、それぞれ別々に駆け落ちしてしまっているらしい。

泥棒は、怪我が治るまで、双子の家に匿われるが、盗みの弱みにつけこまれ、双子の親代わりにされてしまうことになるが・・・、というシチュエーションで始まる、ちょっとほのぼのした7つの事件と解決。

「ステップ・ファザー」というのは「継父」という意味らしい。いつの間にか、本当の親と同じようになってくる泥棒と双子の関係が微笑ましい。おどろおどろしい事件はないから、流血や陰惨な事件が苦手な人も安心して読めます。

収録は「ステップ・ファザー・ステップ」「トラブル・トラベラー」「ワンナイト・スタンド」「ヘルター・スケルター」「ロンリー・ハート」「ハンド・クーラー」「ミルキー・ウェイ」

ネタばらしレビューをはじめると

「ステップ・ファザー・ステップ」

泥棒(「俺」)と双子の兄弟の遭遇。本来の目的に立ち返り、双子と出会う原因となった隣家の遺産成金の家に忍び込んだら、なんと鏡だらけの家・・・。

ネタばらしは、「読唇術」と「すりかわり」。

「トラブル・トラベラー」

過疎の町、暮志木町が、始めた町おこしは、ナント、町を岡山の倉敷のそっくりのコピーすること。コピーばかりの町だが、大原美術館に真似てつくった(小原)美術館には、最近、人気の出始めたスペインのセバスチャンという画家の、時価数億の本物の絵がある。

この美術館を訪れていた双子が、町長と一緒に人質にとられるが・・・。

ネタばらしは、「贋作」


「ワンナイト・スタンド」

双子の参観日に借り出された「俺」。双子の学校では、校長へ反対する者からの脅迫文が届いたり、ちょっと騒然としているらしい。そんなことには構わず、授業中に入れ替わり、しかも、それに「俺」が気づくかどうか賭けをしていた双子。「俺」は入れ代わりに気づかず騙されるが、教室の中では、もうひとつの入れ替わりが・・・。

ネタばらしは、「もうひとつの双子」と「裁判所での証言」

「ヘルター・スケルター」

双子の片割れ、哲が盲腸になる。おまけに「俺」は足の小指の爪をはがすという踏んだりけったりの状態。そんな時、家の近くの湖から男女2体の白骨死体が発見される。そういえば、双子の親の顔も何もしらされていない「俺」はもしや、その死体は、双子の親、そして殺したのは、双子?・・・と疑念を膨らませる。

結果は、そんなこともなく、別人の死体なのだが、その転落事故は実は他殺・・・。

ネタばらしは、「飲酒運転にひき逃げ事故」と「別れたがっている亭主を厄介払い」。

「ロンリー・ハート」

旦那に魅力を感じていない奥さんが、文通を始める。(ちょっとシチュエーションが古いのは已むを得ない。この作品が書かれた当時、猫も杓子も携帯電話を持つ時代になるとは想像もできなかったのだから)

亭主の悪口やら、秘密ごとを文通しているうちに、文通相手が、突然脅迫してくる。
脅迫された口止め料を届けようと出かけた先に見つけたのは、頭を割られて死んでいる旦那の姿・・・。

ネタばらしは「犯人は身近にいる」と「弾みのついた石つぶて」

「ハンド・クーラー」

東京の新興住宅地のある家には、毎朝、新聞が庭先に投げ込まれる。しかも、東京から離れた山形の地方新聞。何の目的で、新聞を投げ込むのか?。

ネタばらしは、「昔の恨み」と「新聞をそこまで読む奴はいねーよ」。

「ミルキー・ウェイ」

双子が誘拐される。しかも、別々に。どうやったら、彼らを無事に助けだせるのか。おまけに時間差で・・・。

ネタばらしは、「よくできた偽札」と「偽の親父と祖父」

2005年10月15日土曜日

宮部みゆき「幻色江戸ごよみ」(新潮文庫)

「本所深川ふしぎ草紙」「かまいたち」に続く江戸庶民のさまざまな暮らしを描いた江戸ものの短編集。下町の人情や怪異が語られるのだが、いずれの話も、なんか寂しさ、哀しさが漂うものばかり。それぞれに、いろんな境遇の中で、故郷から一人奉公にでているおかつ(鬼子母火)、不器量なのに、器量がよいと望まれて嫁にもらわれるお信(器量のぞみ)など、頑張って生きていこうとする話ばかりなのだが、突き放したような表現のせいか、一見、少しひんやりとした印象を受ける。しかし、最後は、そうした境遇にもかかわらず生きようとする姿、それを黙って支えあう周りの暖かい姿を感じ、救われる。

収録は「鬼子母火」「紅の玉」「春花秋燈」「器量のぞみ」「庄助の夜着」「まひごのしるべ」「だるま猫」「小袖の手」「首吊り御本尊」「神無月」「侘助の花」「紙吹雪」の12話

下手なネタ晴らしになるかもしれないが

第一話 「鬼子母火」

伊丹屋で神棚からでた小火にまつわる話。神棚から燃え残った注連縄に入れられたこよりに包んだ髪の毛を見つける女中頭のおとよと番頭の藤兵衛。
おかつという年のいかない女中の仕業なのだが、流行病で死に、ろくな供養もしてもらえなかった母親の形見の髪を注連縄に仕込んで、いつも拝んでもらおうという心根からの仕業だった。その髪を供養して燃やした後、おかつを心配して漂う母親の霊。
おとよがおかつの母親代わりになることを告げると、安心して消えていく気配。

田舎者っぽいおかつが母親を想う様子や、それを端から守ってやるおとよの姿に、ちょっと目頭が・・・。

第二話 「紅の玉」

老中水野様の奢侈取締りの中、病弱な妻をかかえ、生活に困っていく飾り職人の佐吉
に、見ず知らずの年老いた侍から、珊瑚の玉を使った銀のかんざしづくりの依頼が舞い込む。そのかんざしにこっそり自分の名前を掘り込む 佐吉だが、その侍が孫娘とともに、水野老中の腹心、鳥居の部下をかたきとして討ったことから、佐吉の運命も暗転していく。佐吉と女房のお美代の支えあう生活が哀しい。

第三話 「春花秋燈」

古道具屋へきた大店の奉公人らしき男に語る、二つの行灯の因縁話。
一つは、象牙の行灯。大店の主人の腹のぐりぐりを余命いくばくもない病と誤診し、 アヘン中毒にしてしまう医者の話。
もう一つは、若い夫婦が床入りしようとすると油もさしていないのにパッと明るく灯る
番いうちの一つの行灯の話。とある旗本の家で、妾が浮気が元で主人に相手の男に成敗されたことが因縁らしいが、男か女かどちらが無念に思っているのか・・・

第四話 「器量のぞみ」

美しい顔をもちながら、それが醜いと思い込んでしまう家の若主人から見初められて嫁に行く大女で不器量なお信の話。お信がその家にかかった呪いを解くが、のろいがとければ不器量なことがわかって追い出されるのではと悩むところや、娘ができて、その娘が旦那に似て器量が良いところから決心をつけるところが秀逸。

第五話 「庄助の夜着」

夜着とはパジャマでなく今の掛け布団のようなもの。
古道具屋で買った、朝顔の浴衣をほぐして襟あてにしてある夜着を被って寝ると、無念 の死を遂げた浴衣の持ち主の娘が枕元に立つ、と言う庄助。彼はその娘に惚れたという。
魅入られたかのように痩せていく庄助の一方で、庄助の勤める店の主人の娘の婚礼仕度は着々と進んでいく。そして、庄助はいずこともなく失踪してしまうのだが、その原因は、幽霊の娘を探すためか、主人の娘に惚れていて婚礼にいたたまれなくなったためなのか。

最後まで真相はわからないが、庄助のちょっと抜けてはいるが純朴な人柄が随所に出ていて、つい庄助に肩入れしてしまう一品。

第六話 「まひごのしるべ」

江戸でよくあったらしい迷子と火事の話。迷子札をたよりに親の家を訪ねると、父親がすでに亡く、母親とその子どもは行方知れず。しかも迷子は、その子どもとは風貌も年齢も違うらしい・・・。その子どもの身許を調べていくうちに、失踪した子どもの悲しい死と
、子どもの死にいたたまれずかどわかしを働く母親の姿が。

ほとんど子ども(ちょうぼう)を描いてあるところはないのだが、母親の様子や、迷子になった後、しばらく面倒をみる大工の女房の様子から可愛らしさが想像できる。それが想像できるだけに子どもを失った母親や、子どもをもっていない大工の女房の寂しさを感じさせる。

第七話 「だるま猫」

町火消しになりたくて入門したが、火事が怖くてドロップアウトしかけている青年、文次。
彼が火消しに再チャレンジするため、しばらく厄介になっている火消しあがりの居酒屋の親父から、被れば火事が怖くなくなるという頭巾を借りて火事場へ望む。
確かに火事は怖くなくなるが、その頭巾を被り続けると人に嫌われるようになるらしい。
嫌われようになるとは一体どういうことか・・・、という作品だが、ちょっと考え落ちが過ぎるかなーという印象。脈絡はないが、スティーブン・キングやブラックウッドの短編を思い出した。

第八話 「小袖の手」

古着屋で見つけてきた着物に因縁のあるそうなところをみつけ、母親が自分の昔出会った怪しげな事を娘に語る話。
出てくる怪異は、着物の袖から手が延びてくる「小袖の手」なのだが、そうと知っても、その小袖を着て、一緒に楽しそうに月見をする袋物商いの老人の寂しさが哀しい。

第九話 「首吊り御本尊」

奉公がつらくて店を飛び出すが、連れ戻された丁稚(捨松)に、店の大旦那が披露する、自分の奉公していたときに教えてもらった、奉公人の神様「首吊りご本尊」の話。
ご本尊と八兵衛(大旦那の話の主人公)の会話がしみじみとしている。
貧しくて奉公をしくじれば実家も飢えてしまう捨松が、奉公に慣れ、ひとり立ちしていく様子がよい。なんとなく元気づけられる話。

第十話 「神無月」

身体の弱い娘の治療費を稼ぐため、1年ごとに神無月(娘の生まれ月)に盗みに入る男と、それを捕らえようとする岡っ引の話。
病気がちで外で遊べない
娘に、小豆のお手玉をつくってやる男。
いずれ最後には、男の捕縛という場面が、予測されるようで、娘をできるだけ長く生きながらえさせるために悪いことではあるが、精一杯頑張る男に「つかまんなよ」と声をかけたくなる。

第十一話 「詫助の花」

看板屋の要助が、掛け行灯にいつも描く「侘助の花」の謂れを聞かれ、生き別れた娘を探すためだと喋った嘘。ところが、その娘だと、名乗る娘が現れた。どこかの大店の主人の妾らしいが、さして裕福でもない要助のむすめだと偽る理由は何だ、と要助の碁敵の質屋の吾兵衛が調べるが埒があかない。
そのうち、その娘は旦那に追い出されて行方知れずになってしまう。要助のところにもそれっきり。
天涯孤独そうな娘が、ふと家族を欲しくなっての仕業かな・・・・と思ったりして。

第十二話 「紙吹雪」

十数年かけて母親と兄の仇を討つ話。しかも、武家の話ではなく、借金のせいの一家心中から幼かったせいで残された娘が、母親に金を貸していた高利貸しの家に住み込み、仇を討つ。
屋根から、借金の証文を切り裂いて撒き散らすところが、西部劇っぽい。