2006年5月27日土曜日

アガサ・クリスティ 「杉の柩」(ハヤカワ文庫)

始まりは、陪審の場面から、というちょっとかわったスタートである。

この本の主人公のエリノアが、メアリイ・ゲラード殺人の疑いで裁判にかけられているところからこのミステリーは始まる。

このエリノアの風貌は、「輪郭の美しい整った顔立ちをしている。瞳は鮮やかな深い青。髪は黒い。」ってなところで、この人は犯人ではないなー、と思ってしまうのは、ちょっと思い込みが強すぎるかな。だって、クリスティの場合、「金髪」っていうのがキーワードのこと多いものな、と予断を持ちながら、読みはじめることにしよう。


展開は、そう複雑ではない。殺人を疑われているエリノアには、金持のおばあさんってのがいて、それが具合が悪くなったということでロンドンから呼び寄せられてくる。彼女一人ではなくて、婚約者のロデリックと一緒だ。(この二人、従兄弟同士ということなのだが、こうした設定、クリスティにはよくみかけるのだが、この時代、こういう結婚が当り前だったのかな)


こうした、一見仲が良さそうで、そのくせ熱烈でないカップルによくあることで、このロデリック、ここでであった美人に一発でいかれてしまう。
これが、物語の中ほどで、殺されてしまうメアリイで、村の貧乏な一家の娘ながら、エリノアのおばあさんに可愛がられて、学校にもいかせてもらうし、ドイツにも勉強にいかせてもらっている、という「芸」というか「美」は身を助く、という具合の娘である

(ちょっと甘ったれぽいが、性格良さそうなんだがなー。これも、金髪美人に弱い男の思い込みかなー?)


この金持のおばあさんの容態がちょっと持ち直して、ロンドンにまたこの二人は帰るのだが、隙間風がちょっと気になりはじめたところで、二度目の発作がおきて、この「金持のばあさんが死んでしまう。

エリノアは、このばあさんの遺産を相続することになるのだが、婚約者のロデリックは、メアリイに未練タラタラで、とうとう二人は婚約解消。
この痛手を忘れすべく、エリノアは、ばあさんの家を売りに出し、家の後始末をしようと、みたび帰ってきたときに、メアリイとばあさんの付き添い看護婦だったホプキンズを呼んでお茶をするのだが、その席でメアリイはモルヒネ中毒で死んじまう。

モルヒネが結構簡単に手に入ってしまう状況(この話では、看護婦が無くしてしまう設定)というのが、ちょっと時代を感じさせるが、クリスティのミステリーというのは毒殺が多いねー。毒殺殺人犯は陰険な人が多いっていう話があるが、毒殺殺人の好きなミステリー作家の性格はどうなんだろう。


で、婚約者を奪われそうになっているエリノア(彼女は「お茶」にメアリイを招待しているし、おまけにこの「お茶」で出た何かにモルヒネが混じっていたようなのだ)が殺人犯だー、と捕まって裁判。というところで、彼女を慕っている医者が,が、ポアロに無実を晴らしてくれるよう頼み込むといったのが、物語の謎解きの展開。


頼まれたポアロは、あちこち聴き込みを開始。やがて、殺人の真実が・・・、というお決まりの筋立なのだが、メアリイが実は不倫の果ての子供だったことがわかったりして、結構、色恋沙汰も昔からいろいろありそう。ネタばれとしては、結局、こうした人間関係が殺人のモロの原因になっているのだが、途中、メアリイがニュージーランドに住む叔母に遺産を残すよう遺言書を各場面なんかがでてきて、さすが大英帝国、ワールドワイドですなー、と妙な感心をしてしまう。


で、もっとネタばれをすると、このワールドワイドが事件のヒント。


ところで、このミステリーの時代設定は、作中でメアリイが「今年は1939年ですわ。そして私は二十一になってます。」と言う場面があることではっきりするのだが、
この1939年の出来事を、wikipediaで調べると

9月1日 - ナチス・ドイツ軍ポーランド侵攻、第二次世界大戦勃発。
9月3日 - イギリス・フランス・オーストラリアがドイツに宣戦布告。
9月3日 - 大本営が関東軍にノモンハン事件の作戦中止を指令。
9月4日 - 日本、第二次世界大戦への不介入を表明。
9月6日 - 南アフリカがドイツに宣戦布告。
9月10日 - カナダがドイツに宣戦布告。
9月16日 - 日本軍・ソ連軍の間でノモンハン事件の停戦成立。
9月17日 - ソ連軍、ボーランド東部に侵攻。
9月27日 - ワルシャワ陥落、ナチス・ドイツの占領下に置かれる。

とある。

おいおい、やけに物騒な年じゃないか。ポアロさん、こんな殺人事件を解決して悦に入っている時じゃないじゃないですか・・・、と思った次第だが、「出物、殺人、ところ構わず」といったところかな。


ちなみに、「杉の柩」というのは、シェイクスピアの「十二夜」という戯曲が出典らしく、

来をれ、最期よ、来をるなら、来をれ
杉の柩に埋めてくりやれ
絶えよ、此の息、絶えるなら、絶えろ
むごいあの児に殺されまする

という坪内逍遥の訳が冒頭に載っているが、どういう関連かは浅学にして知らない。誰か教えてください。

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