2006年6月5日月曜日

松尾由美「バルーン・タウンの手品師」(創元推理文庫)

妊婦探偵 暮林美央の登場するバルーン・タウンシリーズの2冊目。


今回の収録は、「バルーン・タウンの手品師」「バルーン・タウンの自動人形」「オリエント急行十五時四十分の謎」「埴原博士の異常な愛情」

この本で、美央さんが二番目の子供を妊娠していることがわかり、再びバルーン・タウンに戻ることになる。一人ならずも二人目までも、あっさり妊娠してしまうとは、実は、この暮林夫婦、実は、婦唱夫随よろしく仲がとんでもなく良いのでは、と思ってしまう。ついでに、バルーンタウンの隠された謎にまで迫ろう、という2冊めなので、美央ファンは必読。


まず1話目の「バルーン・タウンの手品師」は、国家機密をおさめたCDディスクの捜索もの。この話で、美央のワトソン役を務めていた有明夏乃が出産の時を迎える。
その病室に、外務省に勤めている夏乃の旦那さんが、CDディスクを預けてアメリカに出張するのだが、実は、そのCDにアメリカの大統領の地位を脅かす国家的な秘密が収録されていた。

ところが、夏乃の病室から、そのCDが忽然と消えてしまう。その部屋を出入りしたのは、夏乃の知合い(夏乃の義母さんとか刑事の茉莉奈とか)たちや医師と看護婦しかいない。誰が、何の目的で、国家機密を盗んだのか・・・、といった展開。

この話から、夏乃が赤ちゃんを産んだ後のワトソン役をつとめる東都新聞の友永さよりが登場する。で、この女性が、ミステリー研究会の出身で家庭欄の担当というミスマッチな方で、この話でも、江戸川乱歩の氷の膨張力と融解性が事件を解く鍵だ、とミスリードをしてくれるから、こちらもうかうかと混乱してしまう。

ネタばれは、氷には関連していて、その不透明なことなのだが、このCD、国家機密とはいいながら、妙なものが収録されている。

詳しくは原書を呼んでほしいが、この時期のアメリカの大統領っていうのはコッポラかスピルバーグあたりの映画監督なのだろうなーと想像する。


2話目の「バルーン・タウンの自動人形」は、からくり人形の登場するお話。ただし、バルーン・タウンだけあって、妊婦体操をしたり、腹帯を巻いたりするからくり人形。

このからくり人形をつくった人形師が頭を殴られて、持っていた大金を盗まれるといった事件。これに、「腹帯占い」をする、この人形師の別れた奥さん(再婚していて妊婦なのだが)が、絡んできたりして、それはそれなりに賑やかい。ネタばれは、物理トリックもので、腹帯がつかわれるところが、バルーン・タウンらしいといえば、らしいな。


3つ目は「オリエント急行十五時四十五分の謎」。題名的には「オリエント急行」なのか「パディントン発」なのかっはきりしろよ、といいたくなる題名なのだが、トリック的には、「オリエント急行」に近いかな。

事件は、バルーン・タウンでサイン会を開催するために訪れた作家が、テロよろしくトマトをぶつけられる。
犯人は、タウンの中に仮設された「オリエント急行」そっくりにつくられた占い小屋の方に逃げ込むが、中には見付からない。どこに消えたか・・・といった事件。

ネタばれは、壁っていうのは固定しているとは限らないんですよね、というあたりと、やっぱり「オリエント急行」なのですよ、これが。


最終話は「埴原博士の異常な愛情」。えーい、「ハンニバル」か「博士の異常な愛情」か、はっきりしろよ、おい。ってな暴言はよしにしといて、事件は妊婦の失踪事件。

事件そのものは、ちょっとおたくっぽい奥さんが、実家に帰って失踪するのだが、服を持ちだした気配もない。さて、どこに行ったのか、という事件。

この事件とは別に、美央さんが愛息子を、なぜアルジェリアに旦那と一緒に行かせてしまったのか、というところがわかってくる。で、ネタばれを少しすると、最初の「バルーン・タウンの殺人」で垣間見せた,最新の繁殖技術とそれを支えるための、実験材料をどう確保しているかという先端科学のウィークポイント的なことに、この街がかかわっていることがはっきりするのだが、まあ、最後に、ひさびさ登場の有明夏乃さんが、なんとフランスの圏域(本国だけでなく、植民地も含めてという意味だ)への旅行の権利を得てしまって、ひさびさの美央と玲央(息子だ)のごたいめーん、そしてアルジェでの長女出産ってなことになる展開である。


近未来ミステリーってのは、現在を舞台にしていると、これはまだできないぞ、とか、このシチュエーションは今は実現してないよね、とかいくつか制約があるところをひょいと乗り越えられるところがあって、著者に優利なものなのだが、このバルーン・タウン・シリーズはそういった不満を飲み込ませる出来の良いミステリーだと思うのである。

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