2006年6月25日日曜日

北村 薫「覆面作家の夢の家」(角川文庫)

"外弁慶"のお嬢さま 新妻千秋さんの登場する「覆面作家」シリーズもこれで最終巻。
推理世界の編集者 岡部了介とのコンビの息もぴったりあってきた感じだ。

収録は「覆面作家と謎の写真」「覆面作家、目白を呼ぶ」「覆面作家の夢の家」の三作。


まずは、「覆面作家と謎の写真」。このお話で、岡部了介の兄で刑事をやっている岡部祐介が、了介の「推理世界」のライバル誌、小説ワルツの編集者 静美奈子さんと結婚する運びとなる。

その会場「イワトビペンギン」で出会った、鳥飼さくらさん(この人も小説わるつの元編集者という設定だ)のもちこんだ事件。

事件の中身は、ディズニーランドへ友達で連れだって遊びにいって写真をとったが、その写真の一枚に、今はニューヨーク支社に転勤になっていて日本にいないはずの編集者の同僚が撮影されていたというもの。
まあ、ニューヨークに転勤した本人は生きているし、迷惑かけないなら生き霊ぐらいうっちゃっておけばよいのでは、と思うのだが、この謎を、お節介にもお嬢さまが解いてしまうという展開。

ネタばれは、昔の恋は今が幸せでも未練があるのね、というやつで、まあ、実害がないようであれば、こういうのは封じ込んでしまったほうがいい、とは私の勝手な感想。


第二話「覆面作家、目白を呼ぶ」は、「推理世界」の新人賞に応募してきた有望な作家候補に了介が会いにいくところから始まる。

なんでも、その新人作家、マルハナバチに詳しくて、それを使ったミステリーを書いたのだが、それは出来が良いのだが、その作家が自らが知悉しているジャンル以外で小説が書けそうかどうかを見定めに東北までいくことになった。ところが、その行った先で、その新人作家の今の勤務先(電気製品のチェーン店)の上司(主任さんだ)の車が、目の前でう山道から落ちて炎上するところに出くわす、というもの。

ネタばれは、ハチのアレルギーは死にいたることもある、ということと虻は蜂に似ているというあたり。

事件の謎解きももちろんだが、

トマトはマルハナバチで受粉しないとカスカスのものしかできないので、1世代で終わるような西洋マルハナバチのセットが売られている 

とか 

サクラソウの植生地を守ろうと思ったら、その周辺の広大なマルハナバチの棲息地を守らないと50年後、100年後にはサクラソウの植生地はなくなってしまう、といった"マルハナバチ Tips"も面白い。
このお話、了介とお嬢さまは外泊(といっても、お嬢さまの別荘にだが)をしちゃうんですよ。


最終話の「覆面作家の夢の家」はドールハウスの殺人事件を解決するもの。

といっても、人形が殺されるわけではなくて、殺人現場を象った「ドールハウス」に込められた謎を、お嬢さまが解き明かすもの。
でも、人形が、人差指で「恨」とダイイング・メッセージを残して倒れているドールハウスってのは、ちょっと苦手。なんとなれば、takafamは、アンティックドールとか雛人形ろかが大の苦手なんですよ。


とまあ、個人的な嗜好はおいといて、ネタばれは、"百首歌"。

といっても、御存知ない人がほとんどと思う。わたしもこのミステリーで初めて知った。
で、「百首歌」っていうのは何か作中からひろうと、

歌をまとめて発表するときの形式で、「堀河百首」っていうのが公式版で、一番目は「立春」、二番目は「子日(ねのひ)」三番目は「霞」というふうに百番の「祝詞」まで1〜100までそれぞれの歌題が決められているもの。

ちなみに「恨」は80番目。この80番を百人一首であてはめると・・・・と、かなりネタばれしてしまったな、まだ読んでいない人ごめんなさい。
でも、この百首歌を使えば、数字を漢字で表せる(例えば1001だったら「祝詞、立春」とかね。0は無理だけど)。他のミステリーでも使われそうなトリックではある。


お嬢さまの推理で、このドールハウスの謎もめでたく解けて、ドールハウスの送り主と受け取り手はめでたく恋を成就してしまうのだが、なんと、了介とお嬢さまも、なんとかなてしまいそうなエンディングである。
このシリーズこれで終わりらしいが、新妻が新妻になってしまったら洒落にならないせいで、ここで巻引きとなったのかもしれない、と邪推するのであった。

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