2006年6月20日火曜日

高野和明「十三階段」(講談社文庫)

犯行時刻の記憶を失ってしまい死刑囚にされている男、「樹原」の冤罪を晴らすため、刑務官と、前科を持つ青年が調査に乗り出すという筋立のミステリー。

書名の由来は、死刑が執行される絞首台の階段数が13であるように言われているところなのだが、どうやら13段の絞首台がつくられたことは、巣鴨プリズンの絞首台を除いて日本ではないらしい、と書中にある。この巣鴨プリズンのものはアメリカ軍作成らしいから、この13というのは、やはりキリスト教盛んなところの風習なのだろう。

このミステリー、最初は、死刑囚が刑の執行のために呼び出される場面から始まる。ページ数にしてはさほど割かれていないのだが、呼び出される男が暴れ、咆哮し、嘔吐する様子が、「樹原」を通して描かれているあたり、かなり陰惨な滑り出しである。
さらに、出所者の出所してからの様子を冷静に書き出しているあたりは、最初の死刑の呼び出しの場面と同じく気が滅入るものではある。例えば、被害者への賠償で工場や家を手放している青年の両親とか、学校を止め、家をでた弟とか、犯罪というのが被害者だけでなく加害者の家族を巻き込むものであることを思いしらされる。


さて、探偵役というか主人公が、刑務官というのも珍しいが、それと前科をもつ出所したての青年というコンビも珍しい。

しかも、この刑務官の南郷が頼まれたのが、前述の樹原の冤罪晴らしのための調査で、成功報酬が一人につき1千万という破格の報酬である。しかも、その調査の相棒に、出所したての青年(三上純一)に頼むなんて、なんか裏があるんじゃないの、と思ってしまうのだが、このあたり詳しく書くと完全にネタばれになるので、これ以上はよしておく。


この樹原の事件というのが、保護士が自宅で大きな刃物で、頭をかち割られ、脳漿が飛び出たような惨殺される。しかも、息子が発見者で、その息子は、犯人として捕まった樹原が数メートル先でオートバイ事故で倒れているのを目撃して119番通報をしようとして、親の家に立ち寄っている。さらに、この被告人が、事故のショックで、犯行のころの記憶をすっかりなくしている、というおまけつき。

で、この調査の焦点は、その記憶喪失の最中に、樹原が「階段を登っていたような気がする」といった言葉を頼りに、犯罪現場近くの「階段」探しをするのが中心になるだが、最後の方で、突然、階段が出現するあたりは、ちょっとヤラセのドキュメントっぽい。


ネタばれは、職業が聖職と言われていてもいいやつばまりとは限らないということと、いかに悪人であろうとわが子は可愛いという親の煩悩というあたり。ついでに、このミステリー、三上の昔の事件というか出来事もいろいろ絡みこんでくるの、ちょっと重層的な筋立になっているので、そのへんは要注意である。

読後感は、ちょっと重々しいミステリーなのだが、

例えば


昭和天皇崩御の際、恩赦がでることを予想して、死刑判決を裁判で争っていた被告人が、自ら上告などを取り下げて「死刑」を確定させたものがあった。恩赦は、刑が「確定」していないと適用されないことを知ってのことだったが、その時の恩赦には死刑の軽減は含まれず、その被告人たちは自ら死刑を確定させたことになった 

とか


刑の執行ボタンは3つあって、三人の刑務官が同時にそれを押す。スイッチになっているのは一つなのだが、どれが、そのボタンなのか、刑務官本人にかわからないようなしくみになっている 

とか


一度、長期間手錠をはめられた者は、腕を拘束するようなもの、それが腕時計であっても、はめたがらない 


などなど、刑事事件や刑務所や受刑者のあまり知られていない話が随所に織り込まれているので、そうしたところに着目して読んでも興味深い。

ちょっと、重苦しい気分になるけどね。

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