2006年6月26日月曜日

小泉武夫「旅せざるもの食うべからず」(光文社 知恵の森文庫)

世界の奇怪な味と腐っているのだか発酵しているのだがわからない珍味の探求家、醸造学の権威 小泉武夫さんの食エッセイである。紹介される食べ物は、絶妙な珍味から、そこらにあるのだが気づかない珍味まで、多士済済である。
 
 
収録は「牛肉に昇天」「オキナワは美味しい」「オキンワは美味美味」「カニ食い大魔王」「我が輩はドクター。エビスキー」「ウイグルで羊を食べつくす」「中国は豚の王国」「干物は官能的」「粗は宝だ」「壮絶!マグロの飼いたい」「スッポンの嘆き」「塩湖は眩しい」「鮟鱇に首ったけ!!」「忘れ得ぬ味」「富津物語」「至福のフグ」「ミャンマーに首ったけ」「右利きのカツオ」の18話。 
 
いくつか、美味そうなところを引用すると 
 
口に入れまして、ひと噛みしますと、ぶ厚い肉からチュルルルルとうま汁が滲み出てきましてな、さらにふた噛み致しますとうま汁だけとではなく、ややジューシーな感じの濃味が湧き出て参りましてな、そこに上品な甘味のようなものも追っかけて出てきましてな、口の中はもう美味汁であふれんばかりになりました。(「牛肉に昇天」) 
とか
 

「カニ食い大魔王」では 
 
福島県の相馬地方の名物カニ鍋らしい「ガニマギ」というものの紹介があって、それは
 
海からコッパガニのような奴を一山、生きたまま石臼に入れ、それを野菜のバットのような丸太ん棒で上からついてトrントロンになるまで潰します。・・・つき上げたものを目の粗いザルにいれて漉しますと、からは除けてドロドロの濃い汁が得られます。これを鍋にとり、少し湯を加えて増量させてから煮立て、途中、とうふとネギ、」エノキダケなどを入れて、少しの酒、味噌などで調味しますと出来上がりである。カニの濃汁は、カニのエキスが汁の表面でフワフワと漂って、ちょうど玉子とじのような形となりますので、この鍋料理を別名「カニのフワフワ汁」とも申します。これを椀に盛って。その熱いのをフーフーと息を吹きながら賞味するわけです。 
 
というもの。 
 
 
さらに 
 
特殊な脂肪をハケで塗りながらカリカリに子豚を焼き上げて出されたのですが・・・カリカリの豚皮をはぐように薄く切り取って、それに甘ダレ味噌をちょんと付け、さらにほそ長く切った長ネギをはさみ、春餅で包んで食べるのでありました。(「中国は豚の王国」) 
 
ってな具合である。どうです、ちょっと涎がでそうでしょ。 
 
 
で、最後に「あとがき」のサバの水煮缶を使ったチープな御馳走を紹介しておこう。 
 
それは 
 
開缶して表れた鯖をまな板の上にのせ、少し固めの背に区のほうとブヨブヨの「腹も」を取り分け、背肉はくずしてマヨネーズであえると立派な酒の肴になります。丼に熱い飯を盛り、腹もを全部載せ、さらに缶に残った水煮汁もガバッと全部ぶっかける。醤油をざっとかけ、一度ざっとかき回し、ガツガツと胃袋に送り込むのであります。 
 
というものなのである。なんとも安っぽいが、あのサバの水煮缶の御世話になった人なら、うん、と頷くこと請け合いのものである。 
 
 
まあ、グルメというのは、豪華なものからグロテスクなものまで、高価なものからチープなものまで、幅広いものであるますねー。

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