2006年3月23日木曜日

アガサ・クリスティ 「書斎の死体」

まえがきを読むと、メロドラマの「頭の禿げた准男爵」と同じくらい(「頭の禿げた准男爵」っていうのが、どうもピンとこなくて困るのだが)、ミステリーの「書斎の死体」は使い古されている文句らしいが、その「使い古された」テーマで敢えて書こうというのが、クリスティらしいといえば、クリスティらしい。

事件の舞台は、ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村。しかもマープルの友人のパントリー夫人の夫パントリー大佐の書斎に若い女性の死体が転がっていたというもの。

ミード村の習慣、朝9時から9時半までに村の近所の人達へ電話で朝の挨拶をかける時間になっていて、その日の計画や招待とかの時間も連絡することになっているとか、夜の9時半以降に電話をかけることは、失礼にあたると考えられている、とかいった田舎らしいエピソードも語られる。

この死んでいた女性は、厚化粧で、安っぽい背の開いたイヴニングドレスを着ているといった、ちょっとスキャンダラスな死体。近くのホテルのダンサーをしているという設定だから無理もないのだが、こうした女性に対しては、クリスティはかなり厳しいのが常だから、かなり辛辣である。まあ、このあたりの死体の確認とか、この女の様子とかが、最後の謎解きに向けて、いろんな仕掛けが施されているのだが、ちょっと気がつかなかった。

このほか、映画製作の端くれにいそうな男が妙に高慢ちきで、そのくせなんとも力がなさそうだったり、女子高生が行方不明になって、車の中で焼死体で発見されたり、最初に殺されたダンサーの女性は、お金持ちの老人のお気に入りで、遺産をその娘に残そうとしていることがわかったり、かなりいろんな展開があるのだが、要所、要所でミス・マープルの村人にかこつけた逸話の披露が、ヒントになっているのか撹乱されているのか解からなくなるのは、マープルものの常。例えば、この殺人は校長の奥さんが時計の捩子をまいた時に蛙が飛び出した話のようだとか、ハーボトル老人が、今まで世話をしてくれていた妹が親類の手伝いに家を留守にしている最中に、メイドと仲良くなって、老後を見てもらうことしにしてしまった話なんてのを披瀝されても、どこがどうつながるのか、こいつはちょっと難しい。

ネタバレは、まあ、この若い娘がなぜ他にも良い衣装を持っているのに、なぜ安いふるぼけた衣装を身につけていたのかといったことや、パントリー大佐の家にあった死体は最初から、パントリー大佐の家にあったのか、といったことが謎解きのヒント。まあ、結局は、殺人事件の動機の大半をしめる「金」、とくに「遺産」目当ての殺人ということで、動機はありきたりかもしれないが証人が、実は犯人、優しい顔には注意しろ、といったあたり、またクリスティの手にうかうかとのせられてしまいました。

イギリスの田舎も、日本と同じで、都会や都会者との軋轢はあるんだねー、という感を抱かせる作品でもありました。

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