2006年7月17日月曜日

井沢元彦 「逆説の日本史9 戦国野望編」(小学館文庫)

我々が当り前のように思っている「日本史」の常識を、根底から崩して新たな地平を見せてくれる、井沢元彦氏の「逆説の日本史」も文庫判がようやく戦国時代になってきた。 
 
今まで、「怨霊信仰」や「言霊」の思想で、日本人である我々も気づかない、我々の意識の底にある行動原理を解き明かしてくれた「逆説の・・」が、今度は、戦国時代を題材にどんなキレ技をみせてくれるか楽しみになる。
 
収録は
 
琉球王国の興亡論ー「沖縄人」が築いた東アジア大貿易圏 
海と倭寇の歴史編ーニセ倭寇を生み出した朝鮮民族の差別思想 
戦国、この非日本的な時代編ー「和」の原理を崩壊させた実力主義 
天下人の条件1 武田信玄の限界編ー戦国最強の騎馬軍団と経済政策 
天下人乃条件2 織田信長の野望編ー「天下布武」と「平安楽土」の戦略 
 
の5章。
 

 
最初の2章、琉球王国なり倭寇をとりあげた章では、当時の琉球(沖縄)が、現代でも稀な平和的な海洋貿易国家であることを解き明かしていく。とはいっても、沖縄の歴史が、巷間いわれるように平和的なものではけしてなく、戦争と講和の連続、まあ、どこの国でも繰り返されてきたことは、きちんと抑えてある。でも、どうして、沖縄が戦争のなかった平和な島なんて風に、私たちは思い込んでしまったのだろうな。
 
さらに倭寇である。倭寇のうち日本人は2割程度で、残りの8割は中国人か朝鮮人。おまけに倭寇全盛期の頭目は中国人であったあたり、ちょっと目鱗。おまけに、「倭寇」問題が、実は定住を基本とする「農業国家」と定住を基本としない「商業国家」の対立であったとするあたり、国家の有り様というか、スタイルを考えさせて興味深い。 
 
後半の3章は、日本本土の戦国時代をとりあげる。 
 
日本人が一番興味を持っているのが「戦国時代」で、たしか大河ドラマとか歴史ドラマも「戦国時代」を取り上げると、あまり当たり外れはないらしい。
じゃあ、日本人の心情に「戦国時代」が一番フィットしているのか、というと、けしてそうではなくて、日本人の心情の底にあるのは、やはり「和」。戦国時代に憧れるのは、そうした実力主義に染まりきれない我々のないものねだりだ、と喝破するあたり、うーんと感心してしまう。
 
で、「天下人の条件」は戦国時代の武将でも人気を二分するであろう「武田信玄」と「織田信長」をとりあげて、「天下をとる」という概念は、いったいどういうものなのかを詳しく述べてある。
 
これを読むと、当り前のように思っていた「信長」の発想自体が、とんでもなく独創的というかとんでもなく破天荒な考えであったこと。信玄が、いかに時代にオーソドックスな人で、その意味で「天下人」という概念にはおそらく近づけなかったであろうとするあたり、信玄ファンには申し訳ないが、納得させられてしまう。
 
あと、「戦国武将が誰もが京都に上って天下をとることを夢見ていた」わけではない、といったあたり、サラリーマンが見全員、社長を目指しているわけではないことを考えると頷ける話なのだが、ここではっきり言われるまで、定かには認識しなかった。言われれば、そうだよね、と思わず納得した次第。
 
 
ちょっと全体的に論証がクドクなってきた感じがするが、歴史解説として、現在の「定番」のようになってきたと思わせるシリーズの一作である。

0 件のコメント:

コメントを投稿