2006年7月9日日曜日

松尾由実「ジェンダー城の虜」(ハヤカワ文庫)

「バルーン・タウンの殺人」でデビューを飾った松尾由実さんの第2作。
今度は長編推理である。

今度の舞台は、団地なのだが、この団地、「夫は家事、妻は仕事」といった風に夫婦が役割を逆転させて生活しているか、あるいは同性愛の夫婦といった、ジェンダーを逆転させるか、ジェンダーを無視した人達しか住むことが許可されない(この団地、ある金持(水野真琴、というどうやら双子の片割れの女性)が自治体に寄付してつくった団地で、そこの入居もその金持が権限を持っているという設定だ)団地での事件である。


発端は、ここの団地に住むぼく(谷野友明)のクラスにアメリカ帰りの美少女(小田島美宇)が転校してくるところから始まる。
この小田島家。ジェンダーを逆転させているわけではなくて、小田島美宇の父親の小田島修は、料理とかもほとんどできない、どちらかというと亭主関白な方なのだが、そんじょそこらの家庭では真似のできないところを、この団地の寄付者にして町内会長の水野真琴に見込まれて、入居を許可されたらしい。なんと、この父親の職業、「マッド・サイエンティスト」なのだ。「マッド・サイエンティスト」っていうのが職業になるのかよくわからないのだが、乱暴に意訳すると、いろんなジャンルに顔を突っ込んで、学際的なパテントや特許をもっている人ってな具合かな。このキワモノぶりを買われて、水野町内会長の依頼で重要な機械をつくるよう頼まれたという次第である。

まあ、この水野会長自体が何やら怪しげで、もともとは大金持ちの双子の兄妹で、兄妹そろってヨーロッパに留学中に、兄は自動車事故で死亡。一人残った妹の方が、遺産を受け継いで、こんなヘンテコな団地をつくったというわけなのだが、本当に死んだのが兄の方なのか?ってな疑惑もあるらしい、という人なのである。
で、どんな機械をつくっているんだー、てな方向で話が展開すると思いきや、この小田島博士が誘拐されてしまう。それも黒い服を着て、黒い帽子をかぶり、サングラスをした、背の高い男とずんぐりむっくりした小柄な男の二人づれにである。なんか、こんなコンビ、アメリカのアニメか映画で見たような気がするのだが、気のせいか・・・。
まあ、それはともかく、この誘拐犯の目的、小田島博士が、水野会長の依頼の機械を作り上げるのを阻止するためにやったものらしい。
水野会長によれば、彼女がなにか差別撤廃のために動こうとするときまって、その性差別をよしとする

グループからの妨害が入るというのだが、そんな理不尽な誘拐を放っとくわけにはいかない、とりわけ、とびっきりの美人の同級生小田島美宇の父親でもある・・・、という不純な動機も抱えながら、ぼくや団地の住人たちが、小田島博士奪還へ向けて活動を開始する、っていうのが大体の展開。

で、犯人のネタばれは、「女は家庭」と声高に主張しそうな人は誰か・・・っていうあたりで、一体に、「ジェンダー」=社会的・文化的性別をつくりあげていくのは、やはり文化というか教育の場面が多いだろうから、そのあたりに犯人がいるのだが、これに、なんというか、ビリー・ミリガン的多重人格が絡んでくるので、ちょっと話を複雑にしている。

まあ、犯人探しの顛末は原本を読んで欲しいが、犯人探しをする団地の面々も、さすが、この奇妙な団地を代表してか変り者が続々登場する。例えば、捜査の指揮をとる刑事は、ゲイと暮らしている団地の住人だし、小田島美宇のお手伝いさんは武芸の達人だし、捜査に協力する友明の学校の先生は、美人の英語教師なのだが、ハルクみたいな男性体育教師をボディガードがわりに使っている。

たった一人まともかな、と思っていた谷野友明自体が、なんとカードを手にとれば、どんなドアの鍵も簡単に開けてしまうという、錠前やぶりの達人、といった具合だ。


美宇の父親が誘拐されてからは、わちゃわちゃとした大活劇っぽくなってきて、その勢いにのっかって読み進めれば、作者の手の内に、どんどん載せられていくのだが、それもまた楽しい。SFともミステリともユーモア・サスペンスともいえるごった煮的なお話である。

0 件のコメント:

コメントを投稿