2006年4月16日日曜日

芦原すなお 「ミミズクとオリーブ」

ふんわりとしたミステリーである。

登場するのは、作家で(といっても余り売れてそうにないが)八王子の山の方に引っ込んでいる(八王子から20分ほどバスで行ったあたりらしい)「ぼく」とその「妻」。「ぼく」は讃岐の出身で、奥さんは、高校時代の恩師の娘さんという設定。「僕」のもとにどういうわけか持ち込まれてくる、というか、高校時代の友人で警視庁で刑事をしている「河田」が持ち込んでくる事件を、たちまちのうちに解決していくという設定である。

たちまち解決する、といっても、この奥さん、自分で犯行現場に赴いたりしたり、関係者を聞き込みしたり、といことをするわけではない。現場の捜査をするのは、本職の「河田」刑事であるし、奥さんの指令のまま詳しい調査をするのは、夫の「ぼく」である。奥さんは、話を最初聞いて、推理し、その証拠を固めるために河田刑事や「ぼく」をパシリとして使う、結構人使いの荒い「アームチェア・ディクティティブ」(安楽椅子探偵)である。感じとしては、クリスティの「マープル伯母さん」に近いのだが、作風というか、話の風情からすると、「割烹着」の似合う「和風マープル」である。

収録されているのは「ミミズクとオリーブ」「紅い珊瑚の耳飾り」「おとといのおとふ」「梅見月」「姫鏡台」「寿留女(するめ)」「ずずばな」の7篇。

「ミミズクとオリーブ」は「ぼく」とその奥さんの探偵デビュー。「ぼく」の家の庭にくるミミズクも初登場するし、「ぼく」の奥さんのどことなく武家っぽいというか、古式っぽい様子が窺われるデビュー作である。(設定では、奥さんも英文学の専攻ということになっているのだが、感じる雰囲気は国文学か国史だよな)
起きる事件は、「ぼく」の旧友で遣手の「飯室」の奥さんが逃げてしまった、なんとか行方を掴めないか、というもの。きっかけは度重なる浮気なのだが、その女にまともに対抗する飯室の奥さんもすごい、という印象。


「姫鏡台」は、日本屈指の画家の殺人事件。技術の上手い下手以外に、画家になれる人となれない人があるのだ、ということを言いたいのかな、と思う一遍。芸術は技術ではなくて、それにかける愛情なのかな。

「寿留女」はひさびさに奥さんの機嫌が悪い事件。単純に言えば、奥さんの働きで持ち直した旧家で、旦那さんが浮気をしてしまう。旧家の奥さんは堪え忍ぶが、家を渡すわけにはいかない、と頑張っている、という貞女話の裏にある、実は「どっちもどっち」とう話。貞女ぶる人には、「ぼく」の奥さんは、かなり手厳しい。

最後は「ずずばな」。「ずずばな」というのは、「彼岸花」のこと。服飾デザインとエステで大規模な事業を営んでいる夫婦が死ぬ。奥さんは河豚の毒にあたり、旦那は風呂の中で溺死。しかも、同じ家で、ほぼ同時に、といった事件。
結局は、ともぐい、というか殺し合いは醜いけど、同時に起こると犯人探しも混乱するのは間違いなし、というのが謎解きのヒント。

いずれの短篇も、ふうわりとして、嫌味なく読めてしまう。おまけに、どことなく古めかしい感じを受ける「ぼく」と「妻」のやりとりに包まれ、安心した思い最後まで読んでしまうシリーズである。

北村 薫や加納朋子のファンであれば、これもお気に入りのひとつになること間違いなしの逸品である。

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