2006年4月30日日曜日

芦原すなお 「嫁洗い池」

「ミミズクとふくろう」に続く、八王子に住む、売れない作家の「ぼく」と「妻」の、ふんわりとしたミステリーである。話の都度、警察署を異動している、同級生の「河田警部」もすこぶる元気である。
収録は、「娘たち」「まだらの猫」「九寸五分」「ホームカミング」「シンデレラの花」「嫁洗い池」の6篇。

前作では、河田警部が持ち込んでくる事件ばかりでなく、「ぼく」が出くわす事件もあったのだが、今回は河田警部の持ち込み事件がほとんど。おまけに、この警部、「ぼく」の「妻」に事件を依頼する時には、持ち込んでくる(もちろん、料理してもらった後は、警部も盛大に食べるのだが)郷土の食材も、このミステリーを読むときの別の楽しみのひとつ。

一つ目の「娘たち」は「河田警部」の同僚の「岩部氏」の家出してしまった娘さんの捜索。娘さんというのは、まじめな女子大生で、成人式に父親の買った晴れ着を着る約束をしていたのに、成人式前に家出をしてしまった、という設定。
ネタバレは、「お父さん、あんまり厳しくすると、娘さんがグレちゃいますよ」といったところなのだが、高校生の娘をもつ父親の私としては他人亊ではない。

で、この娘さんを探しに六本木のクラブなぞを訪ねるのだが、「この町はすかん」といった河田警部の感想や、僕の「いい身なりの若い娘もずいぶん多い。華やかなものだ。日本にはやっぱり金があり余っているようだ。」という表現がある。ほかのところに「アトランタ五輪」というキーワードが出てくるから、1996年あたり、バブルがはじけて、「失われた十年」のまっただ中のあたりの東京、六本木を思い浮かべると「なるほどね」と、いくつかの徒花を思い出す。

二つ目の「まだらの猫」は、密室殺人事件。ある金持が離れで殺される。扉には、密室だから当然鍵がかかっていて被害者の首には毒を塗った吹き矢が刺さっていた、という事件。ネタバレは、吹き矢は殺人の道具ではない、というところや、やたら元気で脂ぎっていた被害者に苛められてきた人間の逆襲といったところ。

この篇で、高松の郷土料理らしい、「アラメ」と「ヒャッカ」というものが登場。前者は海草、後者は葉野菜らしいのだが、現物にお目にかかったことがないので、味の論評はできない。文中の表現を信用すれば、「それぞれを熱いご飯に載せて食べると、もう、あんた。」というぐらいらしい。

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