2005年11月27日日曜日

北 杜夫「どくとるマンボウ青春記」(中公文庫)

どくとるマンボウこと、北杜夫さんの旧制高校入学から大学医学部卒業まじかの時期までの青春記。

時代としては、第2次世界大戦終了後まもない頃で、旧制高校から新制大学に切り替わとるころ。この本で、一番精彩を誇るのは、なんといっても、シュトルムウントドランクだかバンカラの名の下に、噴出す力を、そのまま無統制に噴出させた印象にある旧制高校の寮の話である。

学生時代というのはもともと金がないことが多い上に、終戦直後の食糧難がかぶさるから、やっていることも今の学生の生活に比べたら貧しいことはいうまでもない。
寮の火鉢から灰の中に埋もれたタバコを掘り出して吸ったり、無上の至福は腹いっぱい白米をくうであったりする時代である。。

そのかわり、哲学に(意味もよくわからないのに)妙にかぶれたり、奇妙な風体でインターハイ参加(当時は、ろくにユニフォームもない、ある意味、気楽なスポーツ大会だったようだ)や寮を壊しそうななった寮祭。学内試験では答えと関係のない詩や絵を描いてお情けの点数をもらって、追試を4回も受けるが、なお落第判定の会議では当落選上をうろうろしたり、といった青春時代である。


そうした破天荒な学生生活を営みながら、「蛙の子は蛙」ということか、斉藤茂吉の次男である筆者が徐々に「文学」というものに惹かれ、どっぷりとつかっていく様も興味深い。
人間は、皆、なりたいと思うものになっていくものらしい。

「旧制高校」といっても歴史書の中に単語になってしまっているが、いつの時代も共通する、金を持ってないが、力と熱情はたっぷりあって、暇に恵まれているが、異性には縁がないという、今でもありそうな青春が、この本の中には息づいている。

(そういえば、石原慎太郎の「太陽の季節」とほぼ同時代の青春記であるはずなのだが、「どくとるマンボウ青春記」の方に共感とノスタルジーを覚えるのは、なぜだろう)


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