2005年11月27日日曜日

宮部みゆき 「パーフェクトブルー」(創元推理文庫)

筆者の長編デビュー作にして、蓮見探偵事務所の元警察犬マサのデビュー作でもある。

しかし、長編デビュー作しては、うまいですね~。さすが、今は、日本推理小説界どころか小説界を代表する作家にまでなってしまった筆者のデビュー作なだけはある。

ことわざ的にいうと「栴檀は双葉よりかんばし」といったところか

話は、東京湾を臨む工業団地で、火の手があがる。その火の中では、人間が燃えていた、
という場面から始まる。

この燃えていた人間は、高校野球のエースで諸岡克彦。このエースの弟で不良っぽい諸岡進也と、彼が結果的に転がり込むことになる蓮見探偵事務所の面々(所長、調査員でもある長女の加代子、次女の糸子、そして、元警察犬のマサ)が、この陰惨な殺人事件の犯人を捜していく物語である。

最初は、克彦の幼馴染で、交通事故から今は野球を断念してドロップアウトしている山瀬という少年が犯人ということで一件落着ということになりかけるのだが、そうは問屋がおろさない。

克彦の所属する高校のライバル高校の策略やらが絡んできたかと思うと、製薬会社のなにやら昔の新薬実験の旧悪とそれの脅迫事件までも、絡みついてくる。

目の覚めるような青色から、「パーフェクトブルー」と呼ばれていたドーピング検査薬の新薬開発を人間をモルモットがわりにした製薬会社の当時の開発責任者がなりふりかまわずもみ消しにかかてくるのに、進也や加代ちゃん、マサといった蓮見探偵事務所の面々も巻き込まれ、終には、誘拐され、殺されかかかる。

あやうく逃れた彼等の前に、克彦殺しの真犯人が明らかになるが、それは、意外にも・・・(といったところで犯人は明かしません)

話自体は、甲子園を目指す高校野球の歪んだ姿や、臭い物に蓋どころか燃やして、ないものにしてしまおうとする大企業に代表される組織など、かなり盛りだくさんで、濃いいのだが、語り口が、サクサクしているので、どんどん読めるミステリーである。

結末を知って、ちょっとブルーになったところで、加代ちゃんが進也に、兄のことを尊敬していた聞く場面の進也のこんな言葉で救われる。

「尊敬しても、憧れてもいなかった。ただ、兄貴が好きだった。大好きだった。それだけだよ。」

ここには、高校野球のエースと弟の姿や、兄を殺した犯人をつきとめた弟の姿ではなく、仲の良い、ただの兄弟の姿がある。

宮部ワールド特有の、じんとくる最後の場面にちょっと、涙ぐみそう。

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