2011年5月7日土曜日

藤原緋沙子 「藍染袴お匙帖 恋指南」(双葉文庫)

6冊目を迎えた、女医の千鶴先生シリーズ。登場人物のキャラも固まってきて、作者の筆も円熟を増し、彼らが自由闊達な動きを始めるあたりである。

収録は

「長屋の梅」
「草餅」
「恋指南」

の3作

さて、ネタバレに近いレビュー。

「長屋の梅」は千鶴先生が牢医をしている、女牢の牢名主 お勝 から、娘の様子を見て、金を渡して欲しいと頼まれるところから始まる。囚人から物を頼まれるのは御法度。しかも金は、いわゆる「ツル」というやつで、入牢のとき、囚人が牢名主に差し出す年貢のようなもの。しかし、切羽つまっている様子のお勝に頼まれ、引き受けることにした。探し当てるとお勝の娘、おしか は、お勝を恨んでいる様子。だが、亭主が殺しの疑いをかけられて失踪。娘と二人で逼迫した生活をしている。おしかの亭主七之助の行方と彼にかけられた嫌疑を晴らすため、千鶴先生の活躍やいかに・・、という感じ。あいかわらず千鶴先生の想い人、求馬さんがいい活躍している。

「草餅」は、千鶴先生の診療所へ、子どもを堕ろしてくれ、とおなかという女が訪ねてくるところから始まる。五郎政がその女の後をつけると、女は女人禁制のお寺に入っていく。さらに、女の後を尾ける別の男の住居で、猛獣の屏風に脅されて・・と展開していくお話。
千鶴先生の弟子で大店の娘の「お道」と姉の「お花」、おなかが入ったいったお寺の坊主「覚信」がこの話の大事なキャラ。

全二作はいずれも「親と子」の話。意に反して子供を捨てざるを得なかった親、意に反して子を授かった親に芽生える子への愛情。そして、恨んでいるように見えて、親を慕いう子。時代劇のおきまりではあるが、泣かせる設定。

「恋指南」は、参勤交代の時に、国許から江戸へ来るお武家についてくる田舎中間が脅しに合っている場面から。参勤交代で江戸にやってくる武家は「浅葱裏」と呼ばれて、粋や通を尊ぶ江戸っ子から、相当バカにされていたらしいから、中間も同様らしい。
出だしは本筋の謎解きの複線で、この話は、千鶴先生の想い人、求馬さんの友人の金十郎という貧乏旗本が、場末の遊女 はぎのに惚れて、身請けするのどうこうといった大騒動をやらかすのと、「はぎの」の敵討ちが本筋。中間を脅す男に絡まれる「はぎの」の哀れさと金十郎のちょっとふにゃっとした男意気がミソ。

さて、三作とも、天下を揺るがす陰謀やら、お家騒動やら、おおがかりな時代劇には定番のものは何一つでてこない。市井の人々のお話ばかりなのだが、じんと沁みる話ばかりであるのは間違いない。

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