2011年4月19日火曜日

藤原緋沙子 「藍染袴お匙帖 紅い雪」(双葉文庫)

千鶴先生の捕物帖も第4作目になった。彼女の医者の傍らの探索も堂に入ってきて、そこらの同心には負けない感じになってきている。

収録は、「紅い雪」「恋文」「藤かずら」

ネタバレ覚悟のレビューをやると

「紅い雪」は、盗人に入られて今では行商をやっている小間物屋の父親が、愛娘を吉原に女郎に出す。商いは細々ではありながら順調になりつつあるので、商売がらみの借金ではない。訳を聞いても父親は「恩ある人のため」としか言わない。娘の幼なじみで将来を誓った松吉は自暴自棄になっていく。娘と松吉をなんとか救おうとする千鶴、といった展開。物語の最初の方で千鶴の診察する老夫婦が意味深。最後のところで、娘を請け出すために金を握りしめて吉原に駆けっていく松吉と娘の父親と母親の若い頃がダブってくるのが、なんともうれしくなる終わりかた。


「恋文」は、うってかわって、ちょっともの悲しいお話。冒頭で暴漢に襲われている札差し 奈良屋を千鶴先生が助けたことから、「なつめ」という娘につけ狙われることになる。なつめは奈良屋を襲った若い男と顔見知りのようなのだが・・・といった具合で、なつめたちを幼い頃襲った津波の話が、何とも今の東日本大震災の話と重なってきて、なんとも泣ける展開。

「藤かずら」は、うら寂しいながら、でも爺さん、あんた思いは無駄にならなかったよ、最後、ちょっぴり安心するお話。出だしは、千鶴先生が診察をしている大きな料理屋の女将のところに、藤かずらを老人が届けてくるところから。この老人、実はもとは腕の良い職人だったのだが、とあることから妻と子供と離別し(まあ、奥さんを弟分に寝取られたのが原因だが)、身を持ち崩した過去がある。そして、その身を持ち崩している間に、ある悪事に手をそめ、それが今になって・・・といった感じ。「鑿」に込めた父親の思いは今は成人して石工になっている息子に届くか・・・ってのがミソ。


全体に、このシリーズ、最後が陰惨にならなくて救われる。大団円、皆よかった、よかったってのは最近の時代物にしてもありえない展開であるとはいえ、幼い子が死んだり、正直者がバカをみただけで終わりってのは、現実の世界だけで願い下げにして欲しく、せめてこうした捕物帖ぐらい、最後はすっきりして終わりたいよな、という思いをある程度満たしてくれるのが嬉しいシリーズものである。

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