2011年4月24日日曜日

北村 薫 「玻璃の天」(文春文庫)

昭和初期の東京を舞台に女学校に通う令嬢とお付きの女性運転士のミステリーである、
ベッキーさんシリーズの第2弾。

収録は
「幻の橋」
「想夫連」
「玻璃の天」
の三作

時代は、戦争の臭いを漂わせ始めた昭和初期ということで、どことなくセピア色の懐かしさを漂わせながら、硝煙の臭いも混じってきている時代である。その時代の中で女学生時代を過ごす主人公の英子は健気で、まっすぐで、良い娘なんだよなー。このシリーズの本当の主役はベッキーさんかもしれないが、私は英子お嬢様の動きがなんとも元気で好きだな。

さて、収録作の様子はというと

「幻の橋」はお金持ちや格式のある旧家の子弟の通う女学校らしく、明治の時代に兄弟がけんか別れした二つの家の孫息子、孫娘の恋愛話。両家の和解の席で起きた浮世絵消失事件の謎解き。絵画の消失の謎が両家の不和の原因にまでつながっていく因縁の深さがちょっと怖い。この話の最後の方で、ベッキーさんの昔の秘密がちょっと明らかになるので注意。

「想夫連」は、主人公 英子が公家出身の華族のお嬢様の同級生、綾乃さんと仲良くなるのだが、彼女と始める仮名を使った手紙のやりとりを始めるのだが、しばらくしてその綾乃さんが行方しれずになる。綾乃の母親から渡された、仮名を使った封筒には、暗号らしき紙も入っていて・・・という展開。まあ、この主人公の英子さん、勢いは良いお嬢さんなのだが、ちょっと奥手のところがあるから、色恋の手引きの片棒を知らず知らず担がされてしまう典型だな。

作中に出る二人が仲良くなるきっかけとなるのがウェブスターの「あしなが おぢさん」なのだが、この表記がなんとも旧弊っぽくてよい

表題作の「玻璃の天」は兄と食事をした、銀座 資生堂パーラーで、財閥の大番頭の息子、末黒野氏に会ううところから始まる。再び末黒野に会った英子は、ひょんなことから末黒野の新築の屋敷の披露に招かれることとなる。その屋敷は、そのパーラーで見かけた末黒野の友人乾原の設計するものだったのだが、その披露の宴の時に転落事故が発生する。転落事故の犠牲になったのは、ベッキーさんとも因縁のあったような段倉という男だったのだが、その事故の陰にある謎とは、といったところで留めておこうか。


三作とも、時代の風情を反映してかちょっと重く、暗いところがあるのだが、陰鬱にならず、曇天であるのだが、一筋の陽の光が差し込んでいるように思えるのは、やはり、英子お嬢様の明るさかな。

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