2011年4月10日日曜日

藤原緋沙子 「藍染袴お匙帖 風光る」(双葉文庫)

ミステリーとか時代小説というのは、どこか似たところがあると思っていて、それは、筋立てで読ませるものか、設定で読ませるものかに大きく分けることができるのではないか、というところ。

そういった意味で。この「藍染袴お匙帖」は初手は、前者の匂いを持ちながら、大別すると後者に当たると思っていて、女牢付きのうら若い女性医師「千鶴」、しかもこの女性は女だてらに長崎帰りでシーボルトの教えを受けている、という主人公を思いついた時点で「設定で読ませる時代小説」である「藍染袴お匙帖」は成功したと言っていい。

収録は「蜻火」、「花蝋燭」、「春落葉」、「走り雨」の4作

少々ネタバレを許していただけるなら、

「蜻火」は立て替えされる店の後から見つかった白骨から行方不明になっている男の顔を復顔する話であり、「花蝋燭」は想い合っている男の将来のために、自らを犠牲にする話。
また、「春落葉」は非業の死を遂げた弟のために、永年の恨みを晴らそうとする話。
最後の4作目の「走り雨」は千鶴の親代わりの医師 酔楽 の友人が職務柄せざるをえなかった、とある藩の改易の後日談である。

第1作ということもあってか、2作目以降と違って、千鶴先生の立ち居振る舞いも固いせいか、話も少し暗いところを残している。とりわけ、個人的には、3作目の話で犯人の弟が非業の死を遂げるところあたりは、泣けてきて困った(最近、年をとって涙腺がゆるいせいか、年若い人や幼い子が悲しい目にあう話ってのはかなり苦手になってきているのだ)。


ま、それはそれとして、久々に、凜とした女主人公の登場である。千鶴先生の後ろ盾になったつもりで読もうではありませんか。千鶴先生って、結構気が強い割にナイーブな、ツンデレ系なので、はまってしまう人が出そうなタイプなんである。

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