2009年6月24日水曜日

椎名 誠 「全日本食えば食える図鑑」(新潮文庫)

食エッセイあるいは、日本食べ歩きといっていいのだが、題名で想像がつくとおり、食べるものが尋常のものではない。というよりは、フツーは食わないだろ、といった代物や「うーむ、ちょっとね」といった食べ物の食エッセイである。

収録は

睾丸のようなもの。ぐねぐねするやつら(沖縄県 与那国島・石垣島)

なんてこったの肛門チンポコ生物(佐賀県 有明海・唐津)

決め技はコリコリとずるずる(京都府 伊根・丹後)

奇食ではなく貴食なのであった(北海道 阿寒湖)

ヒトは禁じられると求めるものだ(岩手県 遠野・宮古)

高知の山海秘密の三本勝負(高知県 安芸・大方)

食うか食われるか。ミキにはキミの夢がある(鹿児島県 奄美大島)

でっかくて黒いやつ。小さくて黒が好きなやつ(青森県 鰍ケ沢。下北半島)

輝け!第1回全日本麺の甲子園大会(日本全国)

でらうまの謎(愛知県 名古屋)

愛と策略の蜂の子まぜごはん(長野県 白馬・穂高)

鮒ずしへの詫び状(滋賀県 琵琶湖)

一見して、どんな食べ物かがわかるものもあるから、一部を紹介するだけにしておくが、椰子蟹、うみへび、いそぎんちゃく、ゲンゲのナンダもしくはババアないしはグラと呼ばれるもの、ゴカイ(エラコ)、ウツボ、納豆サンド、といった代物がオンパレードである。


いったいにこういうゲテモノというのは、一種の怖いモノみたさのようなものがあって、自分が食べるのは別にして、他人が食べるのを見たり、読んだりするのは、妙に自虐的な快感がある。

といったことで、あえていくつか引用すると

「睾丸のようなもの。ぐねぐねするやつら」の"エラブー汁"は、

まず汁を飲む。なかなかコクがあって旨い。醤油味がしたようだが聞いてみると醤油は使っていないという。エラブーは皮がまだ残っていた。さっき包丁でこすってウロコを取っていたと思ったのだが、噛むときの歯に感じる抵抗感はうろこの下の皮のようであった。とはいって噛みきれる堅さである。その独特の臭みと歯触りは以前食べた何かに似ている。はてなんであったか。ゆっくり噛みしめながら考える。やがて思い出した。
 これはニシンの味とその感触である。ニシンの中でも戦後間もない頃によく食べたミガキニシンに似ている

てな具合だし、


「決め技はコリコリとずるずる」の"グラジル"は

本当にグラの全身にヌルヌルの皮膜があって、最初に自然にそれだけすすれるようになっている。全身を薄く覆っていると思ったのだが、口にしてみるとゼラチン層はおもったよりも厚くのびるのでいつまでもすすれるかんじだ。

「ずるずるずる」
「どうですか。なかなかでしょう。とくにそこが鼻汁をすすっているみたいでなかなかいいでしょう」
「ううう」

といった感じ。

「ヒトは禁じられると求めるものだ」の"ゴカイ(エラコ)"は

その下にゴカイやイソメよりもミミズに近いのがだらんとついている。全体に黒く体表は弱い。閉じこもっている管を指で破って無理やりひっぱりだすと、すぐ千切れてしまう弱さだ。千切れて内臓らしいのがはみ出ているのより一匹ちゃんとしたやつのほうがいい。イソメやゴカイは掴むとかなりはげしくクネクネ動き回るのだが、こいつは定住性だからなのだろうか、あくまでも「もうだめ」といいつつダラントシテイル。イキオイでそいつを囓った。苦い。エグイ。渋い。塩辛い。

といった具合で、旨いのがマズいのか、少しぐらいなら、囓ってみたくなるような、ならないような塩梅である(かな?)。


まあ、こうした、ちょっと引いてしまうような食べ物ばかりでなく、エゾシカのジンギスカン、タタキ、味噌炊きやドブロクの蔵出し、名古屋の朝の豪華モーニング7品セット、などなど、まともで、思わず生唾を飲み込みそうなエッセイも収録されているので、食わず嫌いせずに、まず読んでみなさい、というのが、この一冊であります。

そういえば、「でらうまの謎」にもでてきた「台湾ラーメン」(「台湾」と名がついているが、台湾にはない代物)は、カップ麺にもなっていて、親戚から送ってもらったのを食したことがあるが、美味であった。誰か、ネット通販か何かあったら紹介してもらえないだろうかしら?

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