2009年6月22日月曜日

下川裕治「日本を降りる若者たち」(講談社現代新書)

若者の貧乏旅といえば、汚いジーパンに、使い古したナップザックを背負い、安宿に泊まり、地元の人と同じ貧相な(失礼!)食事をし、国から国へと渡っていく、というイメージであったし、旅本を読む楽しみも、家庭と暮らしと仕事に雁字搦めになっている我が身を一時、解放するというものであったのだが、本書によると、どうも「若者の旅」が変質しているらしい。

なにもせず、どこへも行かない旅行者たち

外こもり。日本で引きこもるのではなく、海外の街引きこもる若者たち

が出現しているらしい。

章立ては
「旅から外こもりへ」
「東京は二度と行きたくない」
「人と出会える街」
「ワーキングホリデーの果てに」
「留学リベンジ組」
「なんとかなるさ」
「これでいいんだと思える場所」
「死ぬつもりでやってきた」
「こもるのに最適な場所」
「帰るのが怖い」
「ここだったら老後を生きていける」
「沖縄にて」
「ラングナム通りの日本人たち」
で序章から付章までの13章立て。

で、この章の題名でもわかるように、この本に出てくる日本人は、優しく、そしてナイーブで、傷つきやすく、元気がない。

それは、彼らの暮らし方のスタイルにも言えて、多くの「外こもり」の人たちが、日本で数月のアルバイト(例えば、自動車の組み立てなどの住み込みで一気に金を稼げるもの)で資金を貯め、それを原資にタイなどのアジアで質素に暮らすという方式である。
そこには、日本を捨てるという意識もないかわりに、海外で一旗という娑婆っ気もない。日本での「ひきこもり」が、場所を変えているだけで(最近は、宿もゲストハウスじゃなくて、アパートを借りるらしい。理由は「安い」から)


「部屋で?本を読むか、ゲームをするか、メールを見るか、自分のブログを書くか、サイトを見ているか・・・。テレビはタイ語ばかりだから、ほとんど見ません。・・・」


といった暮らしぶりなのだ。


なぜ、こうして海外を旅する若者のスタイルが変わってしまったのかというと、それは、やはり、「日本」というものが変質してしまった、ということが大きいのだろう。

本書からいくつか引用すると


死ぬつもりでカオサンに流れ着いたという日本人は、タイという国とタイ人に幻惑され、しだいに元気を取り戻していく。しかしそれは、タイという国が演出してくれる舞台で踊っているのにすぎない。どこかやっていけそうになって帰ったとしても、待ち構えているのは、自分自身の心の均衡を狂わせ、弾き出そうとした不寛容な日本社会なのだ。(第7章 死ぬつもりでやってきた)


であり、


外こもりとは、突き詰めれば日本社会からの逃避である。うまく逃げ通せれば、余裕がなくなりつつある日本社会で、奥歯に力を入れて生きなくてもいいと思う。
・・・
だが、日本社会が怖い。
いまの日本社会に怖さを感じ取ってしまう若者が増えている。逃避への羨望をいつも抱えもってしまっている。外こもりの入り口のひとつは、その怖さであることもまたたしか


ということなのだ。

そして、こうした暮らしは若者だけでなく、東京で飲み屋を経営していて、そこを引き払ってチェンマイに移り住んできた老人たちにも共通する。

そこに現れるのは、強い者にはなんということもないが、弱い者には、かなりのストレスと生きにくさを見せ始めた「日本」という国家の姿であり、アジアへと、そうした人を追いやっている、我々の姿でもある。


いつから、そんなに「怖い」国になってしまったのだろう・・・・と、何も意識せずに、この日本で生計を立て、暮らしている私なぞは思ってしまう。それは、なんとはなしに「今」に適合し、なんとはなしに「弱者」を追い立ててしまっている、「普通の人」の意識しない、冷たい目線なのかもしれず、


結局、日本人は「頑張る」という言葉を巡って人生が展開される、そうも思える。いや日本人というより、資本主義の世の中では、どこも同じなのかもしれない、現に、外こもりファラン(白人)もカオサンやプーケットにわんさかいる。・・・突き詰めると、近代がどういう時代であったか、そして、近代資本主義がもたらした豊かさに対する問いかけなのかもしれない(終わりに)


という「現代」というものが持つ「無惨さ」なのかもしれない。


とはいっても、将来に希望がないわけではない。最後に、タイのラングナム通りで、現地に職を得て働いている若者の言葉を引用して終わろう。

「いまタイにいるけれど、日本は「戻るところ」。生きにくい場所ではない。生活していて、そして働いている上で、日本にいる方が気楽な部分もある。仕事をするなら絶対日本がいい」

ニッポン ガンバレ!

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