2005年10月30日日曜日

椎名 誠「地球どこでも不思議旅」(集英社文庫)

1985年7月25日初版(初出は昭和57年とある)。定価は400円だが、リサイクルショップで105円で購入。

収録は「プロレス王国メキシコの謎と秘密と大コーフン」「日本列島みぎひだり水平直角大勝負」「いま中国・シルクロードはどうなっておるのか」そして「<巻末特別対談>椎名誠VS沢野ひろし 今わしらは正しいホテルについてこう考える」

メキシコ、日本列島の旅では京都から出雲、津軽、高松、そしてシルクロードにそってゴビ砂漠へ(本当はラーメンを訪ねる旅にしたかったらしいが)、日本がまだとっても元気だった頃の旅行記である。

メキシコでは、現地ではルチャ・リブレと呼ばれるプロレス三昧。二日酔いで動けなかった日を除いて、メキシコ各地のプロレスを巡る旅である。若い美人までがプロレスに熱狂する姿や、善玉と悪玉がはっきり別れているメキシコのプロレスの底流に征服者スペインへのインディオの復讐を見たり、当時から筆者の目は鋭い。とはいっても、最後はプロレス好きの血が大騒ぎしているのが楽しい。

うってかわって日本の旅は、結構愚痴っぽい。やたらとちやほやされる京都が嫌いなのは言うに及ばず、地方都市でも、必要のないサービスやありがたさを強要する観光地や観光ホテルには手厳しい。
ところが好きなものになると、でれでれ状態に近くなる。この篇では「うどん」。もともと麺類が好きらしいが、それでも香川の「うどん」については、べた惚れである。

知り合いの会社の若社長の家で、うどんをごちそうになるところを引用すると
「・・・今度は釜あげうどんがでてきた。これはうどんを茹でてお湯を切りそのままドンブリにのせたものだ。ここにかつおぶしを大量にふりかけ、こまかく切ったあさつきをパラパラとこれもかなり大量にふりかけ、そこに擦りおろした生姜を少々、最後に醤油と味の素をヒトフリかけてこれを手早くかき回すのだ。醤油はうどん全体がほんのりとキツネ色になるくらいがよろしいようで、全体がすっかり混ざったところで素早くフッハフッハずるずるフッハフッハずるずるフッハと食べていくのである」
といった具合だ。
これが、飾りの多いソーメンになると、とたんに冷たい表現になり、落差がはげしい。

中国の旅も、まだ開放経済など夢にも思わない頃の話。NHKのシルクロードの放映が終わったあたりらしい。そのシルクロードの現場を見るというのは名目で、実は本場のラーメン探訪をしたかったらしい。ところが、結局ありついたのは、へび肉ラーメンと発売したての中国製のインスタントラーメンだけ。内心、不満の残る旅といったところか。
不思議なことが一つ。この旅行記では、中国の服務員がかなり好意的に書かれているのだ。もちろん、昭和57年当時の旅行社のからんだ旅行だから、他の旅行記のような貧乏で怪しい青年の一人旅ではないのだから当然なのかもしれないが、仏頂面と「不没」の一点張りといわれることばかりの旅行記の中では珍しい部類。当時は、中国も、擦れていなかったということか・・・。

旅行当時から、かなり年数が経過していることもあり、古びた感じはいたしかたない。昔の日本と世界はこうでした、という感じで読めば、それなりに楽しめる。

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