2005年10月5日水曜日

塩野七生 「ローマ人の物語 20 悪名高き皇帝たち[四]」(新潮文庫)

今に至るまで、暴君、暗君として評価されるネロの登場である。

しかし、この本を読む限り、馬鹿でどうしようもない皇帝ではない。
特に統治の最初の頃は、セネカなどの補佐が良かったせいかもしれないが、ローマ市民や元老院の評判は悪くなかった。むしろ熱狂をもって迎えられていたとは意外。
もっとも、見栄えのしないクラウディウスの後なので、若くて見栄えがよければ、誰でもよかったのかもしれないが・・・・。


ただ、ネロの言行を見ても、そんなヘンな奴ではない。優柔不断だったり、ボンボンっぽいところで、なんか的外れだったりするところはあるが、自分を神だといって悦にいていたカリグラに比べれば、ずいぶんマシな皇帝である。いろんなことが気にかかって、結局何も、まともに仕上げられない気の優しい優等生の典型なのかも。

もっとも、やたら歌を評価されたがるところは、願い下げの感はある。こういった旦那芸の披露が不人気に結びついているんじゃないだろうか。最後は、元老院からも市民からも見放されて、自死させられるのだが、旦那芸の無理強いが遠因ではないかと思うことしきり。芸は身を助けなかったわけだ。

ネロの死によって、アウグストゥス以来の皇帝の血統は絶えることになる。ネロまでは、やたら血統にこだわっていたローマ市民も、これ以後はカエサルの血統にこだわらなくなるそうだ。一般の市民が飽きっぽいところは、どこでも同じようだ・・・

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