2006年1月29日日曜日

エリス・ピーターズ 「死体が多すぎる」(教養文庫)

修道士カドフェル・シリーズの2作目である。


ハヤカワ・ミステリマガジンで、カドフェルものは掌編的なものは読んだことはあるのだが、きちんとまとまった中編は初めてだ。リサイクルショップで、とびとびに買い込んだので順々にレビューしよう。

 まずは、この「死体が多すぎる」である。

時は1138年。舞台はイギリスのシュールズベリ。
といってもシュールズベリってのはどこだ・・・とググッてみると、「中世の都市」ってページがある。

このページによると、イギリスの本島の真ん中より下の辺りかな、ウェールズの近くで、11世紀のノルマン・コンクエストの時に防衛の要としてつくられたとある。



ノルマン・コンクエストってのは何だ、と今度は、この本の解説を見ると、1066年にノルマンディー公ウィリアム、イングランドを征服して「ノルマン王朝」ってのが始めたことのよう。
要はフランス人にイギリス人が負けちゃって王様になられてしまった、っていうことか。


とはいっても、フランスといった国家意識が芽生えている時代ではないから、ノルマンの王様がイングランドも支配下にいれてしまったぐらいの意識だろう。

 このウィリアム1世の没後、三男のウィリアム三世、四男のヘンリー一世が後を継いだが、このヘンリー一世が跡継ぎに娘のモード(この女性はフランス北西部のアンジューの伯爵と結婚していたらしい)を指名するが、旦那の支配地にいる間に、イングランドの貴族がヘンリー一世の妹の息子のスティーブンを王にすることに同意してしまったから、モードがおさまらない。王位を返せって訳で十数年、内戦が続く、といったあたりが、この小説の時代風景。


どうも、このあたりのヨーロッパの歴史は茫洋としていて、記憶にない。
東洋史的にみると1115年に中国では「金」が建国され、1125年に「遼」が、1126年に「北宋」が「金」によって滅ぼされている。日本史的には1156年の保元の乱、1159年には平治の乱がおきて、1167年に平 清盛が太政大臣になっている、といったあたりのようだ。


時代的な確認はここまでにして、この「死体が多すぎる」の筋立ては、スティーブン王がモードに味方するシュールズベリを攻め落としたあたりから始まる。
戦乱の常で、敵の捕虜94人を絞首刑にするが、その死体を埋めようとすると95体ある。しかも、紛れ込んだ死体は、後ろから紐のようなもので絞められていて、この処刑の際に殺されたものではないらしい。こいつは誰だ、といったところが発端。

それからスティーブンの味方についた、アライン・サイウォードという金髪美人が処刑された死体の中に、逃亡したはずの自分の兄を発見したり、アラインに首っ丈っぽい騎士が出てきたり、逃亡した城主のお宝の探索もあったり。

さらに、カドフェルが途中、逃亡したシュールズベリの城主の側近の娘が修道士に化けているところを一瞬で見抜いたり、いった決めシーンを交えながら、殺された男は城主のお宝運びをする予定の兵士で、現場には、トパーズのついた短剣の飾りの一部が残されている。持ち主は誰だ、そして殺人の目的は、といった感じで進行していく。


最後は、悪い奴と思っていたら、実は正義の騎士(ナイト)でした。悪い役人を正義の騎士(ナイト)が成敗して、キレーなお姫様と結ばれました。そのほかの、若い恋人たちは、異国で幸せに暮らすでしょう・・・ってな感じ。
テンポは緩いが、飽きさせず読ませてくれました。


「中世の修道院」っていうとなにやら怪しげな秘法とか、悪魔憑きとかをイメージしてしまうのだが、このカドフェルが十字軍あがりで真っ当な薬の調合を担当している修道士という役回りにしているせいか、妙な魔法くささや宗教くささは微塵もありません。
「ドラゴン アンド ダンジョン」のイメージで読むと間違うけど、とある中世の田舎町の事件という感じで読めばよいと思う。
ちょっと変わった異国情緒は、味わえる点はオススメ。

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