2006年1月4日水曜日

長崎快宏 「アジアケチケチ一人旅」(PHP文庫)

旅行記の楽しみは、日本とかけ離れた異国の情緒を、実際に旅することなしにふれあうこと以外に、ちょっと古い旅行本だと、今は失われてしまった外国の一時代に触れるという、ちょっとうがった楽しみがある。
この本も1998年3月に書き下ろしされたものだから7年前か、それ以上前のアジアの姿と暮らしが描かれたものといってよい。だから、旅の新しい知識を仕入れたり、穴場を発見するつもりで読むと痛い目をあうことになるが、ちょっと昔の歴史の記録やルポルタージュを読む気で読むと、かなり面白い。

舞台は、タイ・バンコクとバックパッカーのメッカ・カオサンロード(今もそうかどうかは知らないが)から始まり、パキスタン、イラン、インド、ミャンマー、韓国、フィリピンとアジアをほとんど総ナメしている。
しかも、ここにあるのは、まだ良きアジアというべき時代のアジアである。アフガニスタンはアメリカの侵攻どころかタリバンの陰すらないし、インドはまだIT革命の波にもまれていない眠れる偉大な地方のままである。そこで、現地の人と一緒に食べる食事、100円のカレーや麺類の数々は、あまり清潔とはいえないが懐かしい味がしそうであるし、道端で商売をしているのは、露天のカメラ屋や代書屋。移動の手段は、バイクを改造したトゥクトゥクである。
収録されている逸話は、旅本に定番の食べ物、安宿などにとまらない、女子学生の制服やトイレにまで及んでいるのが、この本のちょっと変わったところ。
ちょっとなつかしいアジアの旅、今はもうないかもしれないが、かってはあったアジアを疑似体験できる本である。しかも、写真ばかりでなく、アジアの屋台やトイレや食べ物などの豊富なイラストも入っている。新刊本では手に入り難いかもしれないが、古本屋でみつけたらぜひどうぞ。

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