2006年1月22日日曜日

壇 一雄 「壇流クッキング」(中公文庫)

先だってレビューした食べ物本の名著「食は広州に在り」と並び立つ「壇流クッキング」である。

著者は、壇 一雄さん。「火宅の人」で有名な小説家とか、壇ふみさんのお父さんといった紹介フレーズがあるのだが、今も通用するかどうか怪しい。

ともかく、そういった有名な方の食べ物本である。時代的には昭和45年にサンケイ新聞に連載されたものなので文中の食べ物の値段やら世相についての記述はさすがに古めいてきているが、昭和40年代を切り取ったエッセーとも考えて読もう。

とりあげられていることは、ものすごく贅沢なものとか貴重なものとかはないのだが、
40数年という時間を感じさせるところが随所にある。


例えば「タケノコの竹林焼き」のあたり。

掘りたてのタケノコ2、3本用意して、それを竹皮のついたまま中に穴をあける。そして生醤油を流し込み、大根かなにかを削ったもので蓋をする。

そして、そして、である。


<そこらの枯葉、枯木を寄せ集めて、あらかじめ焚火を焚いておき、そのタケノコを半分灰の中につっ込むようにして焼くだけだ。>


・・・「だけ」って言われても、今は困りますよね。

また、当時、まだモツを食べるのが珍しい時代だったから、モツ料理の章は、まずモツを肉屋から買う話とモツへの偏見を

<日本人は、清楚で、潔癖な料理をつくることに一生懸命なあまり、ずいぶんと、大切でおいしい部分を棄ててしまうムダな食べ方に、なれ過ぎた。ひとつには、長いこと折衝が禁じられた時代のために、鳥獣のほんとうの食べ方がすっかり忘れられてしまったのである。
日本人は、いわばササミのところばかり食べて、肝腎の、おいしい部分を、ほとんど棄ててしまう気味がある。>

と払拭するところから始まっている。

そういえば、管理人の子供の頃だって、焼肉は食べてもモツは食べたことなかったものな、と思い出す。


構成は、1年を通して、いろんな食材をとりあげて自炊の技や料理の秘訣を、一流文士(かなり古めいた言葉ですねー)がご紹介しようというもので、「春から夏へ」「夏から秋へ」「秋から冬へ」「冬から春へ」という4部構成。



旨い店の紹介本ではなく、旨いものと旨い料理の仕方を綴った本なので、今でも使えそうな料理法やアイデアは満載である。
実は独身時代には、この本の鶏の手羽の料理を参考に、手羽先の炒め物と、手羽のダシスープを使ったラーメンというのが、自炊の食事の定番だった。

通読して、手間と時間は良いものをつくる原点ですよ、とあらためて感じた食べ物本であった。

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