2009年7月6日月曜日

芦原すなお「雪のマズルカ」(創元推理文庫)

銀座NO.1のクラブのホステスと車で事故死した夫の跡を継いで私立探偵になった笹野里子がでくわす事件の数々。

ハードに、タフに事件を解決していく里子が最後にたどり着いた夫の事故死の真相は・・・・

といったのが、おおよその本書の構成。

収録は

「雪のマズルカ」
「氷の炎」
「アウト・オブ・ノーウェア」
「ショウダウン」

の4編。

では、ネタばれすれすれでレビューをするとしよう。

まず。表題作「雪のマズルカ」は不良の金持ち娘を家に連れ戻すようその娘の祖父に依頼されるところから始まる。まあ、当然、この娘の付き合っている男や組織はロクでもないが、依頼者自身もロクでもなくて、その二つをどうにかしようと思うと、まあ、ゴルディアスの結び目をアレキサンダー大王が解決した手法よろしく少々乱暴なやり方もやむを得ないかもね、といったところ。イヤなやつが、イヤな奴なりに描かれているのが新鮮といえば新鮮。

「氷の炎」は里子がずっと昔に助けたことのある、今は女優となったいる娘の素行調べから始まる、奇妙な結末を迎える事件。因果応報といった言葉が、なんとなく思いおこされる物語。あるいは、形を変えたエディプス・コンプレックスの解消といったところか、はたまた親の敵討ちととらえるべきか?

「ショウダウン」は、さる代議士のやばい姿を映したフィルムの捜索を里子が頼まれるのだが、どうやら、そのフィルムには亡き夫が絡んでいたらしい。そして、一見関係なさそうな、猟奇殺人(首を針金で締めてレイプするってな事件だ)の犠牲者に、そのフィルムの撮影を依頼した人物(こいつもいかがわしい生業なのだが)がなって・・・、といった形で、紐がねじれるように事件の真相は・・・、ってな筋立て。
結末は結末として、この事件の重要なキーであるフィルムの在り処を捜す過程で、里子の夫の死の真相が明らかになる。なに、すは、大陰謀の犠牲者かってな感じで力んじゃいけない。ネタばれで怒られるのを承知で言うと、破滅型の人間ってのはしょうがねえな、といったもの。ただ、結末にいく展開がちょっと、とんとんと行き過ぎる感が強いので、この夫の死の真相あたりで、うーむと唸っておいたほうがいい。

で、4つの短編を通して言えることは、ハードボイルドな女性主人公の誕生を祝福!といったところか。今まで、日本ミステリーの女性主人公というと、理性的でちょっと控え目か、鼻っ柱の強くて色っぽいの、といったのがよく見るタイプなのだが、こうした過去の影を引きずってはいるが、やるときはきっちりやらせてもらうわよ、と乱暴な振る舞い(なにせ、この4編の中で3編とも、かかる火の粉を相手の命で払っているのだから)も辞さないタイプは珍しいのではなかろうか。
これ以上の乱暴はちょっと、ということなのか、この4編以外の活躍を知らないが、たまには、夫の死の真相を乗り越えた、里子探偵の、ハードな活躍を読んでみたいものである。

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