2009年7月5日日曜日

芦原すなお 「わが身世にふる、じじわかし」(創元推理文庫)

八王子に住んでいる小説家の「ぼく」と「妻」のところへ、警視庁の敏腕(?)で、奇妙な事件が起こる署をたらいまわしにされている河田警部がやって来て、というシチュエーションで始まるおなじみのシリーズ。「ミミズクとオリーブ」「嫁洗い池」に続く第3弾である。

前作でニューヨークに研修派遣されていた河田警部だが、今作では日本に帰ってきていて、ニューヨーク時代の事件についての話もある(もちろん、ぼくの「妻」の推理あっての解決なのだが)。

収録は

「ト・アペイロン」
「NY・アップル」
「わが身よにふる、じじわかし」
「いないいないばあ」
「薄明の王子」
「さみだれ」

の6篇。

このシリーズの楽しみは、なんといっても、そのほんわかとした語り口と「ぼく」と「河田」の掛け合い、割烹着(どんなものかわからない人は、ググってね)と和服がぴったりくる「僕の妻」の妙な冷静な推理だろう。

それぞれの話で起きる事件は、殺人事件にしろ誘拐事件にしろ、どちらかといえば血ご大量に流れている「ほんわか」としていないものが多いし、犯人にしても近親者であったりして、動機もどろどろとしたものが多いのだが、「ぼくの妻」が残酷そうな場面は顔をしかめたり、顔を白くしたり、といった仕草に救われるのである。とはいっても、事件のシチュエーションや殺人のトリックなどは、かなり本格モノなので謎解きミステリーとしても楽しめること間違いない。


さらに、もう一つの楽しみは、随所にでてくる食べ物の話題。
それは、デベラであったり、ソラマメやお好み焼きのソースであったり、けして高級品ではないが、心のどこかにひっかかって、食欲を刺激しながら、物語を読み進める絶好の香辛料にもなっている。

例えば

この具の鍋、ちょっと蓋をとってもいいですか。うわー、いいにおいだ。おお、タケノコ、フキも入ってる!カマボコに揚げ、ゴボウ、レンコン、それからちゃんちコンニャクも入ってる。満点です。奥さん、これでお寿司を作って、それを皿に盛った上に、茹でたキヌサヤエンドウの薄切りと、塩梅よく焼いた錦糸卵と、紅ショウガを、載せるんですよね

といったあたりや

(イリコの)中羽の頭をとり、二つに裂いて皿に盛り、アサツキ、一味唐辛子をかけ、スダチの絞り汁を垂らし、醤油をかければ、もう最高のツマミでございます

といったところに出くわすと、思わず冷蔵庫の扉を開けたくなりませんか。


さて、レビューの最後にネタばれを少々。表題の「じじわかし」ってのは「じじいのかどわかし」のことらしい。なぜ、そうなんだってのは、本書を読んで、自己責任で解明してください。

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