前作でニューヨークに研修派遣されていた河田警部だが、今作では日本に帰ってきていて、ニューヨーク時代の事件についての話もある(もちろん、ぼくの「妻」の推理あっての解決なのだが)。
収録は
「ト・アペイロン」
「NY・アップル」
「わが身よにふる、じじわかし」
「いないいないばあ」
「薄明の王子」
「さみだれ」
の6篇。
このシリーズの楽しみは、なんといっても、そのほんわかとした語り口と「ぼく」と「河田」の掛け合い、割烹着(どんなものかわからない人は、ググってね)と和服がぴったりくる「僕の妻」の妙な冷静な推理だろう。
それぞれの話で起きる事件は、殺人事件にしろ誘拐事件にしろ、どちらかといえば血ご大量に流れている「ほんわか」としていないものが多いし、犯人にしても近親者であったりして、動機もどろどろとしたものが多いのだが、「ぼくの妻」が残酷そうな場面は顔をしかめたり、顔を白くしたり、といった仕草に救われるのである。とはいっても、事件のシチュエーションや殺人のトリックなどは、かなり本格モノなので謎解きミステリーとしても楽しめること間違いない。
さらに、もう一つの楽しみは、随所にでてくる食べ物の話題。
それは、デベラであったり、ソラマメやお好み焼きのソースであったり、けして高級品ではないが、心のどこかにひっかかって、食欲を刺激しながら、物語を読み進める絶好の香辛料にもなっている。
例えば
この具の鍋、ちょっと蓋をとってもいいですか。うわー、いいにおいだ。おお、タケノコ、フキも入ってる!カマボコに揚げ、ゴボウ、レンコン、それからちゃんちコンニャクも入ってる。満点です。奥さん、これでお寿司を作って、それを皿に盛った上に、茹でたキヌサヤエンドウの薄切りと、塩梅よく焼いた錦糸卵と、紅ショウガを、載せるんですよね
といったあたりや
(イリコの)中羽の頭をとり、二つに裂いて皿に盛り、アサツキ、一味唐辛子をかけ、スダチの絞り汁を垂らし、醤油をかければ、もう最高のツマミでございます
といったところに出くわすと、思わず冷蔵庫の扉を開けたくなりませんか。
さて、レビューの最後にネタばれを少々。表題の「じじわかし」ってのは「じじいのかどわかし」のことらしい。なぜ、そうなんだってのは、本書を読んで、自己責任で解明してください。
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