2013年1月20日日曜日

坂木 司「切れない糸」(創元推理文庫)

「和菓子のアン」とつながる連作ミステリー、と帯にはあったが、厳密な意味での
連作というわけではなくて、、「和菓子のアン」主人公のアンちゃんの住む街で起きるミステリー、といったところ(アンちゃんのお母さんがこのクリーニング店でパートをしている、というおまけはあるけどね)。
主人公は。「和菓子のアン」の冒頭のところで噂になっていた「就職の決まらないアライ・クリーニング店の一人息子」新井和也。彼が、父親の急死をきっかけにアライ・クリーニングをアルバイト気分が抜けきらないまま継ぐことになるのだが、たどたどしい営業活動の中で、いろんなトラブルやプチ事件に出くわし、それを大学の友人で同じ町内の喫茶店ロッキーでアルバイトする沢田の推理で解決をしていくという筋立て。

構成は

プロローグ
第一話 グッドバイから始めよう
第二話 東京、東京
第三話 秋祭りの夜
第四話 商店街の歳末
エピローグ

となっていて、乱暴に集約すると、成行きでアライ・クリーニング店を継いだ和也が、さまざまな事件を通じて成長していくという、ミステリー仕立てのビルドゥングス・ロマンっていうような風合いが強い。

解決していく事件の相手方も、第一話が、マンションの住人の河田さん、第二話が幼馴染の糸村麻由子、第三話がマジシャンの渡辺、第四話がアライ・クリーニングに長年勤務するシゲさん、とあちらこちらに飛び跳ねるような展開ではないようにみえて、実は、その謎とともに抱え込んでいる人間模様は、離婚から、都会人の抱える田舎性など、複雑と言っていい。

全体的な構造としては、ひきこもり探偵シリーズの鳥井と坂木に似てはいるのだが、新井と沢田の関係は似ているようで、もう少し軽妙である。それは、最後のところに表れていて、鳥井と坂木が別れと再開といった形をとるに対し、この「きれない糸」の場合は、沢田の旅に従い飯の友は届くにしろ、旅立ったままで終わっているところが、むしろ未来への道筋を感じさせるのだが、どうだろうか。

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