時は明治初期。警視庁に、写真家の上野彦馬と富重利平が川路大警視を訪ねてやってくるところから始まる歴史ミステリー。時代背景としては、西郷隆盛が征韓論争に破れ、下野したあたりから、江藤新平が佐賀の乱を起こし制圧されるあたりまでにところ。
構成は
第1話 証拠写真
第2話 西郷の顔
第3話 青い血痕
第4話 幻影都市
となっているが短編集ではなく、謎解きはそれぞれにあるものの連続した中編である。
ざっくりとした紹介をすると
第1話は、牛鍋屋の近くで女装した男が短銃で撃ち殺される事件。この男というのが、幕末の官軍の一派、赤報隊の生き残りとわかって・・・、といった話
第2話では福地桜痴こと福地源一郎登場。彦馬とこの小説の一連の事件の黒幕らしきものとの仲介役をつとめることになる。一連の事件とは、なぜか西郷隆盛の写った写真が狙われているというもの。
第3話は、彦馬と旧知の写真家内田九一の写真館に勤めている女が、海岸へりで死んでいる事件。自殺か他殺かでまず揉めて、明治の法医学をオランダおいねが披瀝する。このあたりでそろそろ一連の事件の黒幕の明治の元勲が姿を現す。
第4話で、彦馬が東京にやってきた理由が明らかになる。第1話では日本で鑑識捜査を確立するため川路から呼ばれたことになっていたのだが、実は西郷との・・・
といった感じ。
殺人事件の謎解きと平行して、西郷は病弱で、実は影武者がいて、なんと、幕末の時も・・・てなことが途中で明らかになってくるのだが、ここでは詳述しない。本書を読んでのお楽しみとしておこうか。
明治といっても、大久保利通や伊藤博文の専制がまだ始まらず、国としてまだ定まっていない頃のことで、そうした時代特有のわさわさした感じやどこか力が流れ込む先を探しているような脈動の時代感覚がいい味付けになっている。いったいに、日清・日露戦争に至るまでの明治というのは、歴史・時代小説にしろ時代ミステリーにしろ、もっと書かれていい面白い時代であるように思っているのだが、どうだろうか。
そういった意味で、このミステリー、筋立ての乱暴さはちょっと感じるのだが、明治初期の勢いが感じられて、それなりに愉しめた。これも、明治の頃は化学に精通した最先端科学者である"写真"の第一人者の"上野彦馬"というキャラクターを造形できた筆者の腕というものか。
大仰な本格・謎解きを期待してはいけないが、幕末好きは、幕末の後に続く"明治"ということで読んでみてはどうだろうか。
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