2013年1月20日日曜日

坂木 司 「和菓子のアン」(光文社文庫)

引きこもり探偵シリーズで妙手をみせた坂木 司のデパ地下ミステリー。舞台は都心に近いデパートの地下街。そこの和菓子屋の出店(ちょっと表現が古いか・・)で繰り広げられる、ちょうど管理人の最近のミステリーの嗜好にあっている、ちょっとほんわかんとしたミステリー。

収録は
「和菓子のアン」
「一年に一度のデート」
「萩と牡丹」
「甘露家」
「辻占の行方」
の5作

「和菓子のアン」は高校を卒業してニート状態になりかけていた杏子(通称 アンちゃん)がデパ地下の「和菓子舗・みつ屋」に勤める物語のスタート。
みつ屋の店長の椿さんとか職人まがいの知識をもつ同僚の立花など、この作品のキャストが揃うスタートアップ。店長と立花くんの秘密は、まあ本書の中で確認を。謎解きは、会社の役員会に出すらしい茶菓子を買いに来るOLさんの注文に関連したもの。「おとし文」や「水無月」といった菓子の名前にちなんだ謎解き。


「一年に一度のデート」は、七夕にちなんだ恋愛の話が二つ。七夕は地方や国によっては旧がひと暦で祝うところも多いのだが、そんな風習の違いを織り込んだ、若い女性の恋愛話が一つ。もう一つは、一年に一度というのは七夕ばかりではなくて、夏の列島大移動を巻き起こす、あの行事に絡んだ、年配のお客さんのセピア色の話。さらに、この作品で、同僚の一人、桜井さんの昔のやんちゃが最初のほうにでてきて、店長のなにか悲しそうな昔の出来事が最後の方に暗示され、登場人物のディテールがだんだん詳細になってくるのもシリーズものの楽しみ。

「萩と牡丹」ではアンちゃんに妙に絡んでくる、少し強面のおやじの登場。店でなにやら暗号か符牒のようなことをいってアンちゃんを混乱させる。和菓子にちなむことらしいのだが、なんのことか意味不明で・・・、といった感じで展開。この人の正体は、みつ屋に勤める人の関係者なのだが、詳しくは本書で。

「甘露家」では、今まで早番だったアンちゃんが遅番にも回ることに。和菓子屋の時間によっての客層と売れ筋の違いが興味をひく。話の主流は、こうした食べ物を扱う店の暗い部分。数年前の、賞味期限の偽造騒動を彷彿させる。そんな中で、売れ残りの弁当をごっそり買っていく、お酒売り場の生き字引の楠田の、温かい話が心を和ませる。

「辻占の行方」の時期は正月、そこで新年らしくお菓子に挟まれた辻占(おみくじ)が謎の題材。工場の手違いで辻占が印刷されていないものが販売されたのだが、一人の客が持ち込んだものは、どういうわけか絵が描いてある。こうしたデザインのものは工場でもいれた覚えがないというこrとなのだが・・・、というのが主筋の謎。で、これに平行させながら、椿店長の悲しい過去のお話が披瀝される。

よい出来のシリーズものというのは、続きそうでなかなか続編が出ず、終わったのかな、と思っていると思う出すように出て、といったことがあるのだが、この「和菓子のアン」もなんとなく、そんな感じ。まあ、社会を揺るがす巨悪とか、歴史的ななぞっていいようなところから無縁の、日常のちょっとした謎やいい話、というのがこのシリーズの持ち味だから、そんなところでいいのかも。

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