2011年7月31日日曜日

斉藤 孝 「斉藤孝の速読術」(筑摩書房)

タイトルは「速読術」となっているが、テクニカルな速読の技について書かれた本ではなくて、1冊の本あるいは、一人の著者を、いかに手早く分解し、理解し、いかに手早く、自らが使える「概念」や「考え方」を引っ張りだすか、の心構えを中心に書かれた本と思って読んだ本がいいだろう。
「概念」や「考え方」をいかに見つけ、自分のものにするかという観点なので、本を"汚す"ことは当たり前で、おまけに、本を頭から最後まで精読することも必須ではない。そういった意味で、"書物"を崇高なものとして扱うのではなく、あくまで、情報、思想の塊として扱い、そのエッセンスの抽出をどうするか、について書かれているで、そこらの読書論と違い、一種小気味がいい。

構成は

第1講 何をどこまでめざせばいいのか

速読・多読できる技術を磨くと理解力が速くなる/本を読んだときの理解力は3段階に分かれる/「速読力」があれば、相手に対して優位に立てる/Aレベルの理解力に達するには"逆算式読書法"が一番/期間限定、場所限定で本を読む/最終的には使える概念をゲットすることが目標/本を読むことは「視点移動」である/気づきのあるコミュニケーションに到達するには/三色ボールペンは"視点移動ボールペン"だった




第2講 勇気をもって飛ばし読み

2割読んで8割理解する「二割読書法」/タイトル、帯からテーマを推測する/話が変化するところに注目する/違和感と共感の"身体感覚"を手がかりにする/著者に憑依して読むとポイントがかぎわけられる/"ルーペ感覚"を持って、読み解いていく/「引用ベスト3方式」が"ルーペ感覚"を鍛える

第3講 誰でも今すぐできる速読術

"a book"ではなく"books"という考え方/「~流」というスタイルで読め/本は汚しながら読むと「場所記憶」が活用できる/キーワードを飛び石にして理解する/ヘリコプターで荷物を拾っていく感覚で読む/いい引用文を見つけるという観点で読む/書店、図書館を代行のトレーニングジムに変える/基本書を決め、その目次をマップする/同時並行で読み、読めないリスクを分散させる/本を紹介してくれる頭のいい人を身近に配置する

第4講 速読上級者用プログラム

"左手めくり"と"目のたすきトレーニング"/単語の"樹系図"で「推測力」を鍛える/小説は「つっこみ」をいれながら読むことが大切/小説の醍醐味をB4版1枚の紙にまとめる/評論は"仮想敵国"は何かを考えながら読む/バーチャル著者対談のすすめ/外国語の本の「速読・多読」は音読から始める

第5講 速読を生活にうまく組み込んでいく方法

文章が頭に入らないときは「速音読」で脳の分割利用を促す/著者の講演会に行ったり、朗読を聞く/本を読む時間をつくり出す逆転の発想/TPOにわけて読むのが同時並行読みのコツ/初心者のうちは金に糸目をつけない/集中力を鍛えるための"1行読み"トレーニング/本を読むことと呼吸法をセットにする/読んでも疲れない「密息」と「アレクサンダー・テクニーク」/本を雑誌化して読んでしまう方法/難しい本を読むには抽象用語や概念に慣れる

いざ速読の実践に向かうみなさんへ

となっていて、この筆者の本らしく、丁寧な目次になっているので、これを見ただけでも、どんなことが主に主張されようとしているかは解るのだが、あえて、個人的に印象に残ったフレーズを列記すれば

・読む締め切りを設定するには「買った日その日に読み終えてしまう」か「読書会を設定する」こと
・本を読むことは視点移動だから、著者の側、登場人物に視点を移動して、新しい見方や概念を吸収したほうが得
・「速読・多読」するには、常に本に囲まれている環境をつくっておく
・自分のために、本1冊につき引用文を必ず一文選ぶクセをつける
・キーワードを飛び石にして読んでいく。場合によっては、キーワードに丸をつけていって、それで1回読んだことにする
・5冊、10冊と同じ著者のものを読んでいって、その人の切り口を自分のものにして応用する
・その著者の他の本、あるいはその著者がテーマにしている事柄に関する本を一緒に読む

といったあたり

一冊の本を精読することを主義としておられる人には、ちょっと受け入れがたいところもあるかもしれないが、けして、著者も「速読・多読」を薦めているが、「熟読」をしてはいけないとはいっていない。むしろ、より多くの本を「速読・多読」しておいて、お気に入りのものは腰をすえて「熟読」する、あるいは「何度も読む」というのが筆者の主眼ではなかろうか。

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