2013年3月20日水曜日

宮部みゆき「蒲生邸事件」(文春文庫)

サンデー毎日に連載されていた当時、大学入試に失敗した受験生が予備校受験で宿泊したホテルで火災に巻き込まれるが、そこでタイムトラベラーに出会い、戦前の2・26事件当時の東京へ・・・、といったところまで読んだあたり、よくあるタイムトラベラーものか、と思い、そこでスルーしていたのだが、今までそんな扱いをしていたのを改めて後悔した。

筋立ては、ホテル火災の中で、予備校受験のためそこに宿泊していた受験生 尾崎孝史が
タイムトラベラーの血筋を引く男 平田に救われるが、彼に連れて行かれたのは、2・26事件が起きた昭和の初期。しかも、着いたところは、ホテルがあった所で、そこは元陸軍大将の蒲生憲之の私邸で、2.26事件が起きた場所に程近いところ。そして、そこで起こる蒲生元大将の死亡事件・・、といった感じで展開する、2・26事件の勃発から鎮圧までの数日間の物語である。

主な登場人物は、主人公とタイムトラベラーの平田以外は、蒲生大将の弟、後妻、息子と娘、そして使用人の女性2人で、はじめの展開は蒲生大将の死亡は果たして自死なのか、といった風で展開するのと、本書の紹介文もSFミステリーといったことになっているので、思わず犯人探しを始めてしまうのだが、ここでうかうかと乗ってはいけない。
個人的に思うのは、この物語は、ミステリーとして読むのではなく、戦前の、しかも2・26事件あたりの戦禍への危惧が濃厚になるなかで生きている人々を描いた「歴史もの」としてとらえるべきであろう。
それは、孝史が女中のふきに戦争が始まり、負けると告げる場面で、彼は冷静な対比でもは未知のこれから選択する出来事として考えている当時者性の違いであろう。
で、まあ、これは作中の蒲生大将と東条英機首相との対比でもあるのだが、まあこれは本書で。

相対に言えば、ハインラインの「夏への扉」がSFものでありながらリリカルなラブストーリーであると同じに、この物語をSFでありながら、戦争へと進んでいく時代の人々を描いた「歴史もの」であるといっていい。
どっしりとした読後感の残る中篇小説である。

0 件のコメント:

コメントを投稿