2013年7月2日火曜日

「ひきこもり」という不思議なアームチェアディクテティブの形

覆面作家で性別すらも明らかでない坂木 司のひきこもりのプログラマー+外資系の保険会社社員のコンビのミステリー連作が「仔羊の巣」「青空の卵」「動物園の鳥」の三作。

本の帯には「ひきこもり」探偵となっているが、引き篭もっているだけでは事件の解決どころか事件に出会うことすらないわけのだが、それではミステリーが成立しないので、多くの事件がワトソン役である坂木が巻き込まれて、あるいは出くわしたトラブルを鳥井が解決していくというスタイルが主。

登場人物というかレギュラーは私的にはシリーズものになったにもかかわらずそんなに多くはいないと思うのだが、うちの奥さんにいわせると結構多いと言う。ここは人様々に取りようはあると思うのだが、リアルの知り合いの多い「ひきこもりというのも面妖な感じがするがどうだろうか。
基本的には、探偵役である鳥井とワトソン役の坂木。そしてデパートガールの巣田さんと高校の同級生で警察官の滝本と部下の小宮。目の不自由な小宮くん。不良老人っぽい木村老人と高校生の利明 、といったところが主要なキャストで、これに滝本 の知り合いのバイクライダーとかが加わる。といった形である。

収録は1巻目の「青空の卵」 が「夏の終わりの三重奏」「秋の足音」「冬の贈りもの」「春の子供」「初夏のひよこ」、2巻目の「仔羊の巣」が「野生のチェシャ・キャット」「銀貨鉄道を待ちながら」「カキの中のサンタクロース」、3巻目の「動物園の鳥」は動物園を舞台にした中篇、となっている

それぞれの話のレビューは、また別のエントリーに譲りたいのだが、基本としては、どの話も、傷を負った人が、鳥井の推理により事件が解決するに応じて、傷口を塞ぎ、新しい一歩を踏み出すといったのが基本スタイルなのだが、傷口を治癒して、という形でなく、あくまでも血はまだ滲み出しているが当座塞いで、という形をとっているのが通例。
で、もっと言えば、傷口をもっとも塞いで新たな出発をしなければいけなかったのは、実は「ひきこもりの鳥井」ではなくて「ひきこもりの鳥井に全面的に関わっている(あるいは依存している)坂木」であったことが物語が1巻目から2巻目、3巻目と進展していくにつれ明らかになってきているのではなかろうか。
その意味で、このシリーズは「鳥井」が主人公ではなく、古くからの友人の事件に閉じ込められてしまった「ぼく」=「坂木」を解放する物語といっていいような気がする。できうれば、三作連続して呼んだほうがいいよ、お勧めしておこう。

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