2014年4月19日土曜日

濃密な、あまりに濃密な三国志 王 欣太「蒼天航路」

コミック版の三国志といえば、横山光輝の三国志があまりに有名なのだが、このたび劉備玄徳の「蜀」側からではなく。曹操孟徳の「魏」側から描いた王 斤太作の「蒼天航路」を通読した。

 ざっくりと感想からいうと、作者の画風の違いもあろうが、道徳臭の強い劉備側でなく、俗人臭の強い曹操側から見ると三国志というのがこんなに違って見えるのかいな、というところ。

なにせ、登場人物の行動が「濃い」のである。女性が登場すればすぐに性行為に及ぶところを始めとして、なによりも自らの欲望に忠実すぎて、そこまで欲を出さなくてもいいんじゃないの、と淡白な日本人の私としては思ってしまうぐらい「濃い」のである。

 で、これは乱世の物語といえば当たり前のことでもあって、体制の保持という観点が重視される治世の時代は、生の欲望を抑えないと既存の体制そのものが揺らいでしまうのだが、乱世の時代は隙あれば既存の体制をひっくりかえしてやろうという輩ばかりで、そういうのが集まれば、まあやりたい放題の濃い世界が現出しても不思議ではない。

その意味で、乱世の時代であった「三国志」の時代を漢の再興を表向きに歌った劉備玄徳ではなく、乱世の姦雄を嘯いた曹操の視点から描いたこの作品は、横山三国志より「乱世」を強く意識した作品といってよく、様々な視点で揺らぎを見せている現代の日本における「三国志」の解釈といってもいいだろう。

 ただ個人的な苦情をいうとすれば、曹操にあまりにも野心的、理想的に描かれる反作用として、劉備があまりにもだらしのない姿で描かれることが多くて、横山三国志でスタートした当方として、そのギャップに苦しむのである

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