2007年2月14日水曜日

蔵前 仁一 「旅人たちのピーコート」(講談社文庫)

最近、蔵前仁一さんの旅本にこっている。
 
旅本作家の旅先は、行き先が自然に偏ってくるのが通例みたいで、例えば下川裕治さんの旅先は、沖縄、タイといったところが多くなっているし、今は旅本を出すことも少なくなった岸本葉子さんの場合は、中国・台湾がメインで、ときおり北方領土といったところだ。
 
そうした目で蔵前仁一さんの旅本をみるとアジア、それもインド、チベットあたりが一番多いように思うのだが、この本の場合は、そういうことではなく、それまでの蔵前さんの旅を集大成するかのように、アジア、中国、インド、アメリカ、ヨーロッパなどなどと幅広い。
アメリカやヨーロッパを取り上げる旅本は最近珍しいのだが、それよりもまして珍しいのは、「イエメン」が取り上げられていること。
 
 
ところで、「イエメン」ってどこか知ってます。実は、私もとんとどのあたりか御存じない状態だったのだが、章前の地図を見ると、アラビア半島のさきっちょである。
 
 
昔はシバ王国であったとのことで、歴史的には日本よりずっと老舗なのだが、そこはアラビア、なんとも風情が違う。部族国家であったことを反映して、未だに半月刀をもった男がいたり、ライフルで武装していたり、砂漠に残る巨大な廃墟であったり、アジアの豊饒で湿っぽい感じのたたすまいとは、まったく違う、なんというか乾燥してパリッとしたアラビアが広がるのである。
 
 
おきまりの安宿、香港・重慶(チョンキン)マンションにまつわる旅行譚や「舌が痺れるほど辛い」のであって、「ご飯を大量に口にかきこんでなんとか辛さをしのぐ」元祖麻婆豆腐を体験したり、インドの「ホテル・ラクシュミ・ナラヤン・ババン」の想像を絶するほど大量で、しかも最後まで食べないと、その内容をすべて味わえない仕組みになっている南インドのミール(定食)とか、定番っぽい旅本のワハハ的エピソードは満載である。
 
そのほか1979年のアメリカ留学と1999年の再びのアメリカ・ニューヨーク旅行まで、アジアからアメリカまで世界に様々な旅の姿が楽しめる一品。
 

ちなみに表題の「旅人のピーコート」とは筆者がギリシア・アテネで同じような境遇の日本人の旅人からもらった厚手の紺色の分厚いコートのこと。このコートを着て寒いヨーロッパを旅したらしい。まさに袖すりあうも他生の縁を地でいく旅のエピソードである。

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