2008年1月5日土曜日

北村 薫「街の灯」(文春文庫)

「円紫さんと私」シリーズ、「覆面作家」シリーズ以来、ひさびさに「かわいらしい」探偵さんの登場である。北村薫さんの、こうした、若くて、元気がよくて、そのくせ、いろんなことに気が回ってしまうお嬢さんの描きかたには、いつもながら、あれよあれよと乗せられてしまうのが常で、こうした女の子の活躍に思わず頬を緩めてしまうのは、年のせいだろうか。

収録は

「虚栄の市」
「銀座八丁」
「街の灯」

の3篇で、舞台は昭和初期の東京。主人公は、中堅の財閥のお嬢さんで、華族のかたがたも通う女学校(女子高ではないですよ。)の生徒、といった設定。
昭和初期といえば、そろそろ戦雲の影も見えてきたころで、暗殺事件をはじめ世相も明るくない、とうかむしろ暗い時代であるはずなのだが、当時も今もかわらないかもしれない女子学生の生活がそこかしこにはさまっている(おまけに、この主人公の家はお金持ちなので、生活苦はないしね)せいか、なにか、透明感のある明るさがただよっている短篇群である。

筋立は、こうした北村薫のシリーズらしく、新聞紙上の自らを埋めて死んでいた男の事件を推理する「虚栄の市」、兄の友人から投げかけられた、暗号をとく「銀座八丁」とおどろおどろしいものはない。それは、作中の、そこかしこに現れる、古き良き時代の、それも上流の家庭や社会のもつ、どことなく嘘くさくはあるが、上品な言葉や風合いといったものも影響しているのだろう。(女学校の朝の挨拶で、「ごきげんよう」と挨拶しあうなんて、その典型?)
身近な人物(といっても、友人の婚約相手の家の家庭教師なのだが)の殺人事件がおこる「街の灯」にしても、陰惨な場面はない(華族の家の、なんかどろどろしたものは垣間見えるとしてもね。それにしても、この娘の友人の「道子」さまという人、けっこうしたたかですよねー。<詳細は本編を読んでね>)。

できれば、もっとシリーズ化しないものかなー、と切望しているのだが、そうした話は聞かないのが残念。

あ、それと、一作目にでてくる、主人公の英子さんの専属運転士になる別宮さんは、このミステリの時代設定らしい言いかたをすれば「男装の麗人」っぽくて結構格好よいのである。

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