「波乗りの戦略思考」が「山登りの戦略思考」を駆逐できない理由

2018年6月19日火曜日

ビジネス

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田坂広志氏の「まず戦略思考を変えよ」 を読んで戦略思考には方向性の異なる二つの流派があるのではないか、と思いついた


=「山登りの戦略思考」と「波乗りの戦略思考」=

 
先だっての田坂広志氏の「まず戦略思考を変えよ」で、
 
「山登り」の戦略思考とはどのようなものでしょうか?  それは、あたかも「山登り」をするときのように、登るべき山の周辺の「地図」を広げ、その山に登るための最適の「道筋」を定めるといった発想の戦略思考のこと
 
すなわち、
①山登りをするときのように登るべき山の「頂上」(経営目標)を見定め、
②現在立っている地点からその頂上までの「地形」(経営環境)を地図で調べ、
③その頂上に登っていくのに最適の「道筋」(経営戦略)を考える
といった思考のスタイル
 
という「山登りの戦略思考」と
 
①波乗りによって向かうべき方向を定める(ゆるやかなビジョンを描く) ② 乗っている波の刻々の変化を感じとる(環境変化を刻々に把握する)   ③刻々の波の変化に合わせて瞬時に体勢を変化させる(経営戦略を迅速に修正する)
④波と一体となってめざすべき方向に向かっていく(経営戦略を柔軟に実現する) といった戦略思考のスタイル
すなわち、「波乗り」の戦略思考とは、「偶然性」というものを積極的に活用しようとする戦略思考。市場の環境変化や企業の意思決定にともなう「偶然性」というものを否定的に受けとめ、排除しようとするのではなく、肯定的に受けとめ、活用しようとする戦略思考
という「波乗りの戦略思考」を紹介した。(戦略思考の定義については「まず戦略思考を変えよ」からの引用)
「まず戦略思考を・・」の著者の田坂氏は、経営環境がどんどん変わる時代(業界のMAPPINGがどんどん変わる時代)には、「山登りの戦略思考」ではなく、「波乗りの戦略思考」に切り替えるべきだと主張されているのだが、当方的に思うのは、」まだまだ「山登りの戦略思考」のほうが日本の組織では、「方法論」として優勢をしめているように思う。
 

=なぜ「波乗りの戦略思考」は劣勢なのか=

 
その原因は、おそらくは、
 
①「変化に合わせた即座の修正」 
②「偶然性の容認」
という二つのことがネックになっているように思う。
まず一番目の「変化に合わせた即座の修正」という点でいうと、リーダーがワンマン的な統制をしている、極度なトップダウンの組織を除いて、一度決定した「組織決定」を変えていくのは、通常の日本的な組織では容易ではない。
 
もともと「組織決定」自体が、組織の大方の構成員の「同意」「合意」のもとに成り立ったものなので、変更しようとすれば、大方の構成員による承認がいるのである。
 
 
次の「偶然性の容認」ということでは、即座の変更が可能な「ワンマン的な組織」ほどそれが容認できない。というのも、「偶然」を認めるということは、リーダーが示した方向性が、大した原因もなく、突然に揺らぐ、ということを示しているからである。なので、方向性を変えるべき事態が起きても、それは、「想定外」で「未曾有」のことなので、方向性を変えるほど頻発する出来事ではない、と思い込もうとする心理が働くのではないだろうか。
 

=とりあえずの処方箋=

 
こうしてみると、「山登り」から「波乗り」へ方向転換していくのは、そんなに簡単ではない気がしてくるのだが、では「山登り」の方法の継続でよいかとなると、環境が刻々と激変する情勢下では、それも上策とは思えない。
では、ということで、当方としては
①「山登り」の戦略の緻密度・精密度を落として、粗い仕上げにしておく。
②粗い戦略に基づいた戦術のチェックを頻繁にやり、PDCAではなく、D(ドゥ)→C(チェック)、D(ドゥ)→C(チェック)を回転をあげて行い、微修正を積み上げる。
③これにあわせて「組織決定」も決定に関与するメンバーの数を減らすと共に、「決定」自体の「粒度」を小さくする仕組みに変えていく。
というやり方がベターではないか、と思っている次第。
 
もともと、「波乗りの戦略思考」のやり方は、旧来からの組織にとっては不安を感じさせるものには間違いなく、これも普及を阻害している要因でもある。「山登り」を簡略化・変形させていって「波乗り」に近づけていくやり方が、日本的組織のメンタリティーに合っているように思うのだが、いかがであろうか。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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